ヒロインは最強(ラスボス)くらいがちょうどいい

@GoodName_Man

序章 チュートリアルを開始しますか? [はい / YES ]

 一人の黒髪の少年が、真っ白な空間に佇んでいた。


『ログインを確認。ようこそアラマサ様』


「いつもどうも」


 どこからともなく聞こえてくる機械音声に対して、少年――アラマサは律義にお礼を言う。


『前回のログインから37時間が経過しています。チュートリアルを開始しますか? [はい / YES] 』


「選択の余地はないのか。ついにバグったのか?」


 げんなりとした様子のアラマサに機械音声は、はっきり答えた。


『失礼ですね。設定されたプログラムに基づいた適切な処理ですよ。時間がもったいないので説明を始めます』


「まじかよ......」


 どこか強引な機械音声に怪訝な顔をするアラマサを無視して、真っ白な空間にいくつかのホログラムが表示され、機械音声の説明が始まった。


『ここは仮想世界、エクスワールドです。従来のフルダイブ型の仮想世界と違い、エクスワールドは現実世界に展開されます。エクスワールドにいる間、現実世界からは一切干渉されません。その逆も然りです』


「いい意味でも悪い意味でも、完全に独立した閉鎖空間ってわけだな」


 ホログラムには現実世界と、そこに仮想世界が展開される様子が映像として表示されている。


『エクスワールドは現実世界の空間質量に依存しません。つまり、アラマサ様がどれだけ小さなお住まいでエクスワールドを展開したとしても、仮想世界の広さは変わりません』


「なんか、遠回しにバカにされてる気がするんだけど」


 アラマサの苦情をスルーして、機械音声は続ける。


『気のせいですよ。説明を続けます。エクスワールドは色々な分野で利用されています。例えば、死人の出ないクリーンな武力闘争や、衛生環境や設備を心配する必要のない医療環境の構築などですね。しかし、このエクスワールド技術は初めから産業用に開発されたわけではありません』


「確か、ある時突然インターネット上に理論が公開されたんだっけか」


 説明を聞くばかりでは飽きてきたのか、割り込むように答えたアラマサ。機械音声は調子を崩された様子もなく言葉を続ける。


『その通りです。そして、最初にエクスワールド技術が取り入れられたのはゲーム開発の分野でした。エクスワールド技術により、ゲームは飛躍的に進化しました。アラマサ様が今ログインしている、このエクスワールド【ウルトラインパクト】もそうした次世代ゲームの一つです』


「じゃあ今俺がログインしているこのゲーム、【ウルトラインパクト】について教えてくれよ」


『もちろん』


 機械音声は、それまでの説明になかった、どこか誇らしげな調子で説明を始めた。


『【ウルトラインパクト】は、プレイヤーがバトルステージでモンスターやエネミーキャラクターと死闘を繰り広げるアクションゲームです。プレイヤーに与えられた高い自由度と、シンプルながらも完成されたゲームシステムが人気を博しました。このゲームはエクスワールドが世に出てきた最初期から存在するゲームで――』


 まくしたてるように語る機械音声を遮り、再びアラマサが言葉をはさんだ。


「――しかし、ゲームの最高レベル、最終ステージに現れるラスボスが理不尽すぎて、誰もクリアできないままゲームは過疎化していきましたとさ」


?』


 これまでとはの受け答えとは明らかに違う、感情のこもった機械音声。アラマサはさらに言葉を続ける。


「っていうかさ。そろそろ茶番チュートリアルは終わりにして、37時間前の続きをしようぜ、




 アラマサの言葉を受け、真っ白な空間に変化が起こった。パキパキパキ、という大きな音とともに、空間自体に亀裂が走ったのだ。


 機械音声――をは、あっけらかんとした調子で言葉を発した。


『ばれていましたか』


「あたりまえだろ」


 アラマサは獰猛に笑って答えた。


 空間に走った亀裂は大きくなり、そして弾けた。


 白い空間は跡形もなくなり、アラマサは巨大なコロシアムに立っていた。そして、アラマサと対峙するように、一人の少女が仁王立ちしていた。


 美しい金の長髪。赤と金を基調とした豪奢なローブを纏うその姿は、いかにもラスボスといった雰囲気を漂わせている。


 そんな少女の姿を見て、しかし臆することなくアラマサは、挨拶するように軽く右手を振った。


 そして気軽に言い放った。


「よう、ウルトラ。今日こそお前を倒して、このゲームをクリアするぞ」


 アラマサから宣戦布告を受けた少女――ウルトラは楽しそうに答えた。


「できるものなら。さあ、楽しいゲームを始めましょう」

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