夜逃げ延期
勝利だギューちゃん
第1話
引っ越し。
住む場所を変えること。
夜逃げは、文字通り逃げる事。
今、僕は夜逃げをしようとしている。
行先は、あの世。
つまり、自殺をしようとしている。
未練がないと言えば、嘘になる。
でも・・・
自分の存在を否定され続ければ、逃げたくもなる。
でも、表立って自殺すれば、迷惑になる。
それだけは、避けたい。
なので、山奥に来た。
ここなら、誰も来ない。
いてもいなくても同じなら、いない方がいい。
なら、去ろう。
誰も、困らない。
で・・・
山奥に来た。
誰もいない。
当たり前だ。
いないから、来たのだ・・・
さてと、最後の晩餐は、おむすび。
少し寂しいが、贅沢をすれば未練が残る。
うまい具合に、廃寺を見つけた。
だれかが、アルプスの少女という、親父ギャグを言ってたが・・・
誰だっけ?
まあいい。
睡眠薬を飲んで、眠るように死のう。
「ここは、私の」
どこから、声がする。
「ここは、私の死に場所、あなたはよそでやって」
そこには、女子高生がいた。
「早い者勝ちだ」
「私は予約していたの」
「知らん」
「そこ見て、書いてあるでしょ?」
画用紙に書かれている。
『美しき美少女、薄井幸子。ここに眠る』
「わかった?だから、おにいさんは、よそでやって」
「今、何と?」
「お兄さん。」
久しぶりに、お兄さんと言われた。
「君みたいな、若い女の子が、死に急ぐんではありません」
「お兄さんも、似たような物でしょ?」
「俺は、40歳だ」
「嘘」
「本当?免許証見せようか?」
少女は、まじまじと見る。
「本当だ。五十嵐幸喜。かっこい名前だね」
「名前だけね」
「でも、風俗では、お兄さんと呼ばれてるでしょ?」
確かにそうだが・・・うんとは言えない。
「私は、この格好だけど、20歳よ」
「嘘。」
「本当。はい免許証。」
確かに、20歳だ。
「で、お兄さんはなんで死のうと思ったの?」
「必要とされていないから」
「確かめた?」
「うん。そういうお前はどうなんだ?」
「お兄さんと同じ」
苦労してるんだな・・・
「で、お前は未練はないのか?」
「ないから来たの?」
「あの海賊漫画の結末は、知りたくないのか?」
「私、見てないから・・・お兄さんは?」
「俺も、読んだことない」
そう、読んだことないのだ・・・
「某探偵漫画の最後は知りたくないの?お兄さん」
「あれは、肩透かしをくらいそうだ。お前はどうだ?」
「私も同じ」
似たもの同士で、引き寄せあったのか・・・
「じゃあ、超人プロレス漫画の最終回は?お兄さん、気にならない」
少女の問いに、我にかえる。
「あっ、そうだ。それは、とても気になる」
「採用されたことあるの?超人」
「まだ無い」
「それは、心残りじゃないの?お兄さん」
そうだ。
それを達成するまで・・・
最終回を見るまで、まだまだ死ねない。
「私も気になる。言ってて思い出したけど」
「そしたらお互い」
「あの世への夜逃げは、延期という事で・・・」
こうして、日常へと戻る。
辛くても、苦しくても、何か楽しみがあれば、乗り越えられる。
で、その少女と一緒になったというオチではなく、その少女とはそれっきりあっていない。
でも、元気であることを祈る。
『またひとり、あの世への夜逃げを止めさせました』
『ご苦労。幸子』
私は、神の使い。
天使の、薄井幸子。
もちろん、コードネーム。
その時の応じて、変わる。
本名は、サリー。
自殺する人を、さりげなくその人にあつたやり方で、思いとどませる。
それが、仕事。
あらゆる生物はいつか死ぬ。
わざわざ、自分から来ることはない。
でも、なるべくなら、私の仕事はないほうがいい。
あっ、お兄さん採用されたんだ。
でも、欲がでたみたいだね。
欲は、生きる希望なのだ。
夜逃げ延期 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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