第31話 龍の城
とりあえずの危険はなさそうだということで、全員を崖の手前まで移動させる。
列が詰まって護衛しやすくなったので、後衛だったネルがぼくのところまで来てくれた。
その間にも、子供が泣いてるような声は断続的に続いている。ような、というか……泣いてる。
「“助けて”って、いってる?」
「……みたいだね。でも、無理じゃないかな」
あの龍、ここから見えてる部分だけでも
「じゃあ、埋もれてる瓦礫の方を片付けてあげるとか」
「なるほど。それなら大丈夫かな」
ネルの提案に乗ってみることにした。カイエンさんたちには崖の上で待機していてもらって、ぼくとネルのふたりだけで森への縄ばしごを降りる。
「魔物の気配は、ないみたい」
「うん。ネルが大物を一掃してくれたからね」
ふつう、大きな脅威が消えたら小さくて弱い魔物が戻ってくるものだが、通り抜けた森は妙に静かで、生き物はどこかに逃げていったようだ。
それはそうか。すさまじい量の岩やら土砂やら瓦礫やらが降ってきて、文字通り“山のように”なってるんだから。落下してきたときには、すごい音や揺れが……
「……してないな」
「どうしたの、アイク?」
「これだけの物が落ちてきたら、ぼくらも物音や揺れで気付いたと思うんだけど。ぼくは感じなかった」
「あたしも。もしかして……あれ?」
ネルとぼくは、前に開口部があった辺りを見上げる。
「転移魔法陣が消えてるね。あれが落下の衝撃を和らげたのかと思ったんだけどな」
「あ、ちょっ、……だれか、しょこの、ひと! た、たしゅけてぇ……」
こちらの声か気配に気付いたらしい龍が、ブンブンと尻尾を振ってアピールを始めた。
見た目は巨大な龍なのに、なんだか言動にすごく愛嬌がある。実際に助けられるかどうかはわからないながらも、手を貸してあげたいとは思ってしまう。
「ちょっと待ってな、いま岩をどかすから」
「それが、すんんんっごく……おもくて、うごかないの……」
「大丈夫、魔法で収納して、外すだけだし」
たしかに、龍の首回りは折り重なる岩と巨木でガッチリと押さえ込まれていた。動かすのは無理でも“
「まだあるの? 君の首、ずいぶん長いね」
「も、もうちょっとぉ……」
いくつも噛み合わさって首輪みたいに拘束していた金属片を、邪魔そうだったので無理やり剥いで捨てる。
「……アイク!」
地べたに転がった金属片からバチバチッと青白い魔力光が
やっちゃった。首輪
「ぷっはああぁーっ♪」
……いや、それはないかな。当の龍はホッとした顔で首を振り、満面の笑みを浮かべてぼくに手を振っている。
「ありがとぉおお……! どうなることかとおもっちゃったぁ!」
えらく表情豊かな顔を見て幼げな声を聞いているとサラッと受け入れてしまいそうになるが、これは間違いなく異常だ。ふつう、龍は喋らない。単なる魔物の上位種であって、飛んで火を吐き獲物を喰らうだけだ。
古文書に残っている伝説の(史実かどうかは定かではない)古龍の話でも意思の疎通は念波とやらで漠然とした感情のやりとり程度だったらしいし……
「君は、なにもの?」
「ぼくは、“
そんな……“どう?”って顔で見られても、そんなの魔物としても伝説の生き物としても、聞いたこともない。
「ネルは、わかる?」
「ううん。でも、ドラゴンにしては、気配と魔力も生命力も
「ちがぁーう!」
拗ねた幼児のようにジタバタする巨大な龍を見ていると、ピコリと簡素なステータスが表示された。
・名前:パレスティリア(999)
・職業:宮龍(レベル999)
・HP:9999/9999
・MP:9999/9999
・SP:9999/9999
・PP:9999/9999
・スキル:“
ぼくの“
それに、この数値……たしかに生き物じゃなさそう。
「ねえ、もしかして君……
「そう! ぼくは“高機能特化人工生命体”、略して、“
いや、なんかおかしい。法則性なのかセンスなのか頭脳なのか、わかんないけど。
「いま考えた!」
「……
機嫌良さそうに尻尾を振っている姿は可愛とはいえ、どうにも“高機能”と結びつかない。
「ねえパレスティリア。君は、何ができるの?」
「パレスティリア、
「……え?」
いや、意味がよくわからない……と伝えるより早く、宙に伸び上がった龍はとぐろを巻くように広がって、円筒状に膨れ上がり……
「「え、ええええええぇ……⁉︎」」
幾分こじんまりとした、白い宮殿へと姿を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます