第17話 結ばれた絆
「アーシュネルたちは、ここに来てどのくらい?」
「そろそろ一年になるかな」
ファテルが“罠避け”させられたのが一年ほど前だとしたら、ぼくが勇者パーティに引き入れられる少し前だ。
墜落死を前提に亜人を使役する非効率さを思い知って“
「他の人たちは?」
「ええと……いちばん長いひとで七、八年だって」
さすがにぼくも、“それより前に落ちてきたひとはいなかった”などと考えるほど、おめでたくはない。
「その古株っていうのは、カイエンさん?」
「そう。カイエン爺ちゃんと、相棒のケイマーさん」
アーシュネルは、そういって転移魔法陣の置かれた水溜まりの横を指す。少し離れた場所に、石を積んだ塚が見えた。前に見たときは気に留めていなかったけど、お墓なんだろう。激しくひしゃげた板が立て掛けられていた。
「ペリルのお父さん。大楯使いの大きなひとで、ゴブリンの群れからみんなを守って、亡くなったんだって。その頃には、あたしたちはいなかったから、聞いた話だけど」
「……そっか」
正直なところ、ここにいるよりもっと安全で暮らしやすい場所を探すべきなんじゃないかと思っていた。多少の危険や手間を掛けても、長期的にはその方が生存率も、生活の質も上がるはずだ。
問題は、それがどこなのかだ。そんな場所があるならら、こんな守りにくい場所に暮らしてないような気はする。
“今後も地底に落とされてくる亜人たち救うために転移魔法陣から離れたくない”というのは聞いた。それに加えて、偉大な先人ケイマーさんが祀られてるとか、思い入れもあるようだ。
移転を提案するにしても、明確な利点か理由が必要だろう。
「ありがと、アイクヒル」
「ん?」
「ペリルね、お父さんの後を継ぐんだって、形見の盾で必死に練習してたんだけど。オークに壊されちゃったの。おまけに、自分はみんなを守ることもできずに逃がされた側だったから、すごく落ち込んでて」
お墓に立て掛けてあったの、盾だったのね。確かに、もう原型を留めてない。
「ああ、うん。気にしないで。たまたま持ってただけで、ぼくには必要ないものだから」
ファテルたちに救出されたドワーフの少年ペリルには、治療の後で“
まだ彼の身長より大きいから、使いこなすまでには時間が掛かると思うけどな。
「君たちには、ここから向かう先はある?」
「受け入れてくれる国とか、ってこと? ないと思う。亜人が平和に暮らせる国なんて、聞いたこともないし」
だったら、ここを拠点に広げていくしかないのかな。
こんな日に二刻しか陽の差さない地の底で? う〜ん……それはどうなんだろう。
「どうしたの、アイクヒル」
視線が合うと、アーシュネルはニッと笑みを浮かべてくれる。いままでずっと殺伐とした日々を送ってきたぼくには、目を逸らしたくなるくらいに眩しい。でも、目を逸らしたんじゃ、問題は解決しない。
「あのね、アーシュネル。親しいひとには、“アイク”と呼んでほしいんだ」
「がふッ⁉︎」
できるだけさりげなく伝えたんだけど、それを聞いたアーシュネルはぶん殴られたような顔で仰け反った。
「え? なんで⁉︎ そんなに嫌だった⁉︎」
「やややややじゃない、やじゃない! うう、う嬉しい、から、だから!」
「だから?」
「……あ、あた、あたしも、……あの、“ネル”って」
あ、獣人社会では、略するとき
「うん。よろしくね、ネル」
「ぐふぅッ⁉︎」
「いや、だからなんで仰け反るの⁉︎ めちゃくちゃプルプルしてるし⁉︎」
「ネルは、てれてるんですよー」
明るい声に振り返ると、ファテルが笑いながら手を振ってた。ぼくを振り返して、ネルを見る。悔しそうな恥ずかしそうな恨めしそうな顔でぼくとファテルを交互に見てる。そんな顔も可愛い。
「て、てれ照れて、ないし。ね、アイきゅッ⁉︎」
「噛んだし。いや、さん付けもいらないよ。いっしょに乗り切った仲だし、これからも……」
「ごほッ⁉︎ ……いや、もう大丈夫、慣れたから。慣れなきゃいけないんだから!」
「あ、うん。なんか色々と、ごめ……ん?」
差し出されたネルの手に触れると、彼女のステータスが目の前に現れた。それを見てギョッとしているのはぼくだけだ。キョトンとした表情のネルはステータスを見られている自覚がないようだ。
これ、どういうこと?
レベルリセットで
これが初級魔法なのが、まずおかしい。
ふつう他人から“鑑定”を掛けられれば神経を逆撫でされる感じがあるものだ。どんなに優位の魔導適性を持った能力者が行おうとも確実に気付く。何の違和感も持たせず鑑定を行う“窃視”の能力は地味だけど異常だ。
……そして。
・名前:アーシュネル(15)
・職業:戦士(レベル18+40)
・HP:388/580
・MP:414/580
・スキル:“
・習得魔法(初級):“
見えていたネルの数値もまた、異常だった。
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