03

 漫画。おもしろかった。めちゃくちゃ読んで、続きを要求した。彼は笑って、応える。


「4巻までは貸すけど、5巻以降は自分で買ってね」


 4巻まで読んだ。放課後、漫画について話し合ったりもした。そして、5巻は今週末出る。


「ああ早く週末にならないかなあ」


 彼が笑う。

 彼の近くにいると、やさしい雰囲気になれた。なによりも、彼の周りに人が寄ってこない。まるで空気みたいに、ひとの視線が通り抜けていく。それが、心地よかった。

 左胸がないので、むかしからそこそこ視線が面倒だった。ただ、学力も体力も度胸もある。だから、そんな視線は、自分が普通であることでなんとか隠してきた。

 成長した今なら、しようと思えば、下着で隠せる。それでも左胸をそのままにしている理由は、自分にも分からない。


「君の」


 そう言ったまま、彼がちょっと黙る。視線は合わない。


「左胸?」


「うん。ごめん」


「見る?」


 胸の左側をはだける。


「ほら。はずかしくないよ。なにもないし」


「ほんとだ」


 理由は分からない。なぜ、こうなったのかも。ただ、左側の胸がない。それだけ。


「隠さないの?」


「何を?」


「変な目で見られてる。みんなから」


「ね。見られてるよね」


 でも、隠したくない。なぜだろうか。

 彼の手が、伸びてきて。

 なにもない左胸に、ふれる。

 そして、すぐに手を引っ込める。


「ごめん」


「さわるなら右のほうが」


 右にはちゃんとついてるし。


「いや、そういうことじゃなくて。ごめん」


 まだ、そういう関係ではないという、ことなのかもしれない。個人的には、雰囲気が合った時点でいいと思っている。これは相手の問題なので、特に急ぐことはない。

 今日は、ふれてもらった。ちょっと関係が変化した。それだけでいい。

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