02

 不思議な雰囲気の男性だった。

 生きている。それは分かる。ただ、どうしようもなく、気配が希薄。そこにいることが、分からないみたい。何か読んでいる。そして、誰も声をかけないし、誰も気に留めていない。


「なに読んでるの?」


 彼が、声の方向を向く。つまり、わたし。ただ、目は合わない。男女問わず、私と目が合うことは、まずない。どうしても、胸に目がいく。大きくも小さくもなく、平均的な。ただ、左側の欠けた、胸。


「漫画」


 彼の声。低く落ち着いていて、やさしい響き。


「え、漫画?」


「ほら。文庫版」


 本当だった。漫画。


「読む?」

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