ギャルとテスト勉強

「おい徹」

「なんでしょう?」

「ここどうやるんだよ?」


 ボクは化学式について、結愛さんに勉強を教えている。結愛さんの家でやろうと言われたが、ボクが集中できない。だから、ボクの部屋に呼んだのである。


 もうすぐ中間が近い。でも、間に合いそう。


「えっと、ここはですね……」


 この化学式は、比較的易しめだ。ボクでも教えられる。


「また敬語になってるぞ。この間は、克服したくせによ」


 我が家の大型犬を散歩させた際に、ボクは結愛さん相手への敬語を克服した。でも、どうしてもクセで。


「すいません。どうしても抜けなくて」

「あのワン公を呼んで来いよ。敬語抜けるだろ?」

「マロなら今、妹が散歩に出しているよ」


 妹より、ボクの方に懐いているけれど。ボクはマロに舐められているのかもしれない。


「お前、妹がいるんだな? どおりで」

「どうかしましたか?」

「女物のクツがあったから。あと香りも。化粧品じゃなくて、石けんの。お前が浮気するなんてありえねえって思ってたから、女きょうだいがいるんだろうなって」


 すごい観察力だ。これが女性のカンってヤツなのかな。 


「鳴坂中学の二年です。ボクよりしっかりしていて」

「うへえ、お嬢様学校じゃんっ。すげえ」


 自慢の妹を褒められて、ボクもうれしい。


「でも、家族はボクより妹を目に掛けているみたいで。ボクなんて」

「いいや。お前はエライよ。こんなあたしを見捨てないでいてくれるもん」


 結愛さんのノートは、あまり埋まっていなかった。それでも、努力の片鱗は見せた。苦手なところにも向かい合っている。


「結愛さんの方こそ、ちゃんとがんばってるじゃないですか」

「徹の教え方がうまいんだよ」

「でも、手を動かす必要があるのは、結愛さんの方なので」


 結愛さんがボクに手を重ねてきた。


「その手を動かしてくれるのは、お前なんだ。お前がいないと、あたしはずっと立ち止まってて」

「顔が近いです」

「いいんだよ」


 ボクと結愛さんの唇が、再び重なろうとする。そのとき……。


「お兄さん、お茶を淹れたわよ。あら」


 お盆を持った灰色ブレザーの少女が、部屋に入ってきた。 


 ボクの妹だ。お嬢様学校の生徒らしく、黒髪のセミロングである。

 

「あなたは?」


 妹が、結愛さんを見た。


「失礼致します。あた……私は、荘園 結愛と申します。先月から、そちらの徹さんとお付き合いさせていただいています!」


 突然、結愛さんは立ち上がって頭を下げ出す。


「え、ええ。妹の栄子です。よろしく」


 結愛さんと栄子が、固い握手をかわす。


「お邪魔だったわね兄さん。また」


 妹が、部屋を出て行く。


「勉強しましょう」

「だな」

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