クラス1凶暴なギャルが、ボクにだけ優しい。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

ギャルと手を繋ぐ

「おい、とおる


 隣を歩く荘園そうえん 結愛ゆあさんが、ボクに声をかけてくる。


「はい。なんでしょう?」


 カチコチの首を回し、ボクは結愛さんの方を向いた。

 ふんわりしたカールの茶髪を、肩までのツインテでまとめている。クラス最高の美少女でありつつ、最も怖いJKとして、恐れられている。

 歩く度に、胸がゆっさゆっさと弾む。窮屈そうで、カーディガンからはち切れそうだ。

 そんな結愛さんと、ボクは連れ立って歩いていた。まるで夢みたい。


「徹、手ぇ繋げ」


 褐色の手が、ボクに差し出される。

 結愛さんはいわゆる「黒ギャル」という人種だった。親の代から肌を焼いているらしい。ご両親とも、真っ黒だという。


「あ、あうあう……」


 どうしていいかわからない。ボクは戸惑う。


「あうあう、じゃねえよ。いいから手ぇ繋げよ。カレシだろ?」

「そうですけどっ。こ、こんな街中でですか? もし、二人の関係がバレたら」


 ボクたちが交際していることを、クラスのみんなは知らない。もし知られたら、ボクはどんな目に遭わされるか。


 クラスでも、ボクは本名の「盛部もりべ とおる」を全部音読みして、「モブA」と陰で言われている。それくらい、ボクは存在感が薄い。


 なのに、カゼで休んでいた結愛さんにノートを見せたら、交際しようと言ってくれた。


 脅迫かドッキリかなと思ったけれど。

 ボクは、素直に受け止めた。結愛さんは、人をからかうような人じゃないって思ったから。


「周りなんて関係ねえよ。あたしがいいっていってんだよ」


 これが会社だったら、相当なブラックだ。

 結愛さんの肌どころじゃないよ。


「では、失礼します!」


 ボクは握手気味で、手を握った。


「ちょっと痛いって。こういうのは指だけ絡ませるんだよ」


 結愛さんが、「こうやって」とボクの手に指を重ねる。

 ソフトな手触りで、指がボクの手に絡みついてきた。

 ボクは、空を舞い上がりそうな気持ちになる。


「ちゃんと逃げないように掴んどけよ? 今から行くところはやべえんだからよ」

「わかってます。ちゃんと手を握ってあげるから」

「頼もしいな。よろしく頼むぜ」


 今日初めて、結愛さんが笑顔を見せた。

 だけど、大丈夫かな……。


◇ * ◇ * ◇ * ◇

 

「はい口を開けてー」


 結愛さんが、お医者さんの指示で口を大きく開く。


「あーん……んんんんんん!?」


 ガリガリと、お医者さんが結愛さんの歯を削る。



 ボクが結愛さんに着いていった先は、歯医者さんだ。



 どうしても怖いって言うから、ついてきた。

 ボクはただ、結愛さんが逃げないように手を握ってあげることしかできない。


「んんごごごごごっごおごご!?」


 握りしめる手の力が、段々強くなった。涙目になりながら、結愛さんはボクに何か訴えかける。


 だけど、「がんばって」としか、声をかけられない。


「はい終わりましたよー」


 女性看護師さんが、結愛さんから紙エプロンを取り外す。


「死ぬかと思った!」

「だから、大丈夫だったでしょ?」


 銀歯を入れる予約を取って、精算する。


「はーあ。痛い目に遭った。ご褒美にアイス奢ってくれよ」

「三〇分はモノを食べちゃダメって言われたでしょ」

「じゃあ、三〇分買い物に付き合えよ」

「はあい」


 洋服を選んでいる間、結愛さんがボクに視線を向けた。


「バカにしないんだな?」


 クラスで最も恐れられているヤンキーギャルが、歯医者で涙目になる。

 結愛さんを嫌っている人にとっては、笑いの種だろう。


 だけど、ボクはからかったりしない。

 怖いからじゃなくて。


「守ってあげられるのは、ボクだけですから」


「お前、そういうとこ……」


「何がです?」


「ほら三〇分経ったぞ。アイスアイス!」


 強引にボクの手を引いて、結愛さんはアイスクリームの列に並んだ。

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