第5話

「もう行くのか?」


「えぇ。まだまだやることがありますので」


 あれから時間が進むのも速いもので、もう翌日となってしまった。お昼ご飯、夜ご飯と頂いたのだが、テンションが上がっていたお義父さんが真昼間から酒を飲んだり、ミモザさんから馴れ初めを聞かれたり、バトラーさんと手合わせをしたりと、あっという間の一日だった。


「またいらっしゃい。ここはもう、あなたの家でもあるのですから」


「……お嬢様をよろしく頼みますぞ」


 バトラーさんとは、手合わせをしてボッコボコ(比喩)にした後、実力が認められ、ルーナを任せるにふさわしいと判断したようだ。さっきから物凄い威圧を放ってくる。


「お世話になりました」


「お父様、お母様、お元気で」


「また遊びに来ますね」


 三人揃って頭を下げ、こうしてルーナの屋敷を後にした。


「良い家族だったな」


「えぇ……暖かくて、優しくて、大好きで自慢の家族よ」


 そうにっこり笑ったルーナの顔は、とても綺麗だった。


「さて、次はアリスのご両親の所に行かないとな」


「はい!ですが、こことなほぼ真反対なので転移で行ったほうがいいです」


「なるほど、じゃあ行こうか」


 手を出すと、直ぐに二人とも俺の手を握ってくれる。それを確認して転移を発動させて真反対側へ移動。


 市民区の端っこともなれば、人の数が少なくなり、自然の割合が増える。


 王都にはスラムは存在しないが、それでも多少なりとも貧富の格差は存在し、所謂『郊外』と呼ばれる場所には、経済面で苦しくはあるが逞しい人達が生活をしている。


 ……あの王でよくスラムが存在していなかったな。マジでびっくりだわ。周りが優秀だったのかな。


「……なるほど、ここに出たということは……私の家はこっちです」


 転移してきた場所は、人気がないちょっとした広場みたいな所だった。アリスはこの場所を知っているようで、すぐさま家の位置が分かった。


「ここ、知ってる場所なのか?」


「はい。私達が小さい頃の遊び場はここら辺一帯ですから。完璧に覚えてますよ」


 ふんす!と気合いをいれ、「着いてきてください」と俺の手を握って先導をし始めたアリス。


「郊外では、皆さんが助け合って生きてますから、ご近所さんとは皆知り合いなんです」


「へぇ、そうなのか?」


「はい!お菓子作りが好きなおばあさんが居て、子供の頃はその人がいつもクッキーを――――あ!」


 昔の出来事を楽しそうに話すアリス。しかし、途中で話をやめると、俺の後ろを見て誰かを発見したようだ。


 くるりと後ろを向くと、丁度家から誰かが出てきていたタイミングだった。


「アンナおばさん!」


「おやおや……懐かしい声が聞こえると思ったら本当にアリスちゃんじゃないの」


 老婆の姿を見て、嬉しそうに駆けていくアリス。うーん、どこか既視感。


 アリスは、家から出てきた老婆に近寄り、段々とスピードを落として両手を握った。


「お久しぶりです!覚えていてくれたんですか!」


「えぇ、そりゃあ勿論。だって、あなたは郊外の英雄なんですから」


「そ、そんな……英雄だなんて……」


 いや、アリスだって正しく英雄だろう。なにせ、あの邪神と戦い勝ったのだからな。それに、勇者パーティーにも所属していたし、この辺の人から見たら希望の星的な感じだったのだろう。


「今日はどうしたんだい?アリスちゃんの家は、この前引っ越して言ったばかりだろう?」


「はい!もうすぐ私、結婚するのでお父さん達にティルファさんを紹介しようと―――――え?」


「おやおや、アリスちゃんもついに結婚――――結婚?」


 ん?引っ越し?


「引っ越しですか!?」


「結婚!?アリスちゃんが結婚!?」


 アリスと老婆の悲鳴とも言える大きな声がここら一帯に鳴り響く。そして、ここら辺の家は壁が薄いのか、次から次に家から住人が出てきて――――


「なんだと!?アリスちゃんが結婚!?というか帰ってきてたのか!?」


「誰だ!?俺たちのアリスちゃんを誑かした不届き者は!?」


「シバけ!今はいないアレックスさんの分までシバけ!」


 ……なんかすっごい出てきた。というか何処にそんな人数いたの?


「……なんかこの反応、昨日あたりにも見たような気がするわ」


「なぜご両親ではなく、周りの人達との話し合いが多いのか」


 まぁ話し合いは話し合いでも物理であるが。



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新作を投稿してます!競走馬に転生してます。

『533m先の栄光』

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