第6話

 とりあえず、これ以上人が集まってくる前にアリスを回収することにする。



「アリス。今はとりあえず、向かうぞ」


「そ、そうですね!ではアンナおばさん、時間がある時にゆっくりと話しましょう!」


 挨拶を済ませたアリスの手を掴み、気配遮断、それと透明化の魔法を使う。


「あら、消えてしまったわ」


 それをかけたあと、声がする方になだれ込んでくる人達の遥か後方にテレポート。魔法は念の為に切らないでそのままにしておく。


「よし、案内をしてくれ」


「はい、こちらです」


 そして、やや小走り気味に向かう俺たち。


 ……それにしても引っ越しか。この王都内だったらいいのだが、外に出ていたら探すのが難しくなってくるな。


 というか、引っ越ししたのなら何故アリス宛に手紙を書かなかったのだろうか。忘れていたとか……あるかな。


「……!ほ、本当です!居ないです!」


 そして、辿り着いたと思われるアリスの家には、人気が無かった。更に、追い打ちをかけるように家の前には『売家』と書かれた看板が立ってあった。


 これで、アリスの家族がここにいないのは確定した。


「な、なんでお父さんとお母さんは教えてくれなかったんですか!?引っ越ししたならしたで手紙くださいよ!」


 ドサッ!とアリスが地面に座り込んでそう叫んだ。うん。本当になんで手紙送らなかったんだろう。


「……こうなったらご近所さんに行き先を聞いてみましょうか。ほら、立ちなさいアリス」


「はい……」


 ルーナがアリスに手を取って立ち上がらせた。そうと決まればとりあえず、一番近くにある家にでもお邪魔しましょうかね。


 コンコンコン、と隣の家のドアをノックするも反応無し。それじゃあと思ってそのまた隣をノックするも反応無し。


 ……こんな偶然あるのか?二人とも顔を見合わせ、じゃあ反対側のお隣さんの家のドアをノック。これまた反応無し。


 その隣も、向かい側も、そしてその隣も反対側も、全て反応無し。


「………これもしかしてここにいる全員向こうに押しかけて行ったとかないよな」


「いえ、流石にそれは無いはずです。無い……はずです」


「もしそうだったとしたら、そっちの方が怖いわよ」


 逆にもし使っていたら魔法でも使わなければ分からないぐらいの声を拾って駆けつけたということである。そっちの方が怖い。


 これ参ったな……万事休すか。


 ――――ふふ、お困りのようだね。我が愛し子。


「!?」


 久しぶりに声を聞いたと認識をした瞬間には景色は既に変わっていた。


 地面一面に咲く色とりどりの花。空には島が浮いていて、どこか幻想的な空間を彷彿とさせる――――女神アテナの楽園。


 目の前には、前に別れた時と変わらない美貌を誇るアテナ様が、俺たちに向かって微笑んでいた。


「久しぶりだね。こうして会えて嬉しいよ」


「アテナ様!?」


「嘘……ということは、また何か危機が!?」


「あ!?いや、それとは全然関係ないんだ!うん!」


 勘違いをしたアリスとルーナに対して、慌てて手を振って否定をするアテナ様。良かった、また邪神か何かが復活したのかと。


「コホン。私がこうして我が愛し子の前に現れたのは、少し手助けをしようと思っただけだよ」


「手助けですか?」


「うん。それに、邪神討伐のご褒美も送っていなかったと思ってね。そのついでに」


 こっちも仕事がやっと一段落してね、とニッコリ言ったアテナ様。


 ……仕事?神様にも仕事とかあるの?


「ご褒美の方は、君たちがディルクロッドに帰った時に丁度着くようになっているよ」


「ご褒美……い、いえ!俺たちはただ当たり前なことをしただけで――――」


「いいの。こうしないと上がうるさいし、私も何かしたいと思ったから」


 上?


「さて、手助けなんだけど、我が愛し子は今挨拶回りの途中なんだよね。そして、花嫁の家族がいないか、困っていると」


「はい」


 何か色々と気になる単語が出てきたけど、今はそっちよりも手助けの方である。


「私が探してあげる。なに、私にかかれば直ぐだよ」


「い、いいんですか?」


 アリスがアテナ様にそう言うと、ニッコリと笑って頷いてくれた。


「うん、私にとってはこの程度造作もないことだよ。少し待ってね」


 と、言うとアテナ様は目を閉じる。そして数秒ほどで目を開けた。


「見つけた。彼らは今王都、それも一般の家で暮らしている」


「お、王都ですか?」


「うん。どうやら君が送っていたお金のおかげで、良い家に引っ越し出来るほどのお金が充分過ぎるほどに貯まって、今も普通の人と変わらない生活をしているよ」


「よ、良かった……」


 引っ越しと聞いて、色々と不安が溜まっていたのを全て吐き出すかのように息を吐いたアリス。


「それじゃ、君たちをその家の目の前まで送ってあげる。ご褒美、楽しみにしててね」


 そう言うと、アテナ様は俺たちに手を翳し、景色が一変した。

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