第9話

「……こうまで数を揃えているのを見ると、本気でディルクロッドと事を構えようとしているんだな、あの王」


 あらかた10万の兵士たちが近くに来て思う。既に視界の端から端まで人で埋め尽くされた。死ぬまでにこういう光景なんて見る機会ないんだろうなぁと思いながら。


「さて姫様、これから私はかつてのあなたの民を沢山殺すことになるのですが、本当に大丈夫ですか?」


「えぇ。私はあの国を捨てました。狂った王に賛同し、戦争を仕掛ける民もまた狂いました――――一思いに、やってくださいましティルファ様」


「了解しました」


 さて……と、流石にこの範囲をなんの補助なしで一発でやるのは俺でも少しキツい。なので、ここは遠慮なくいかさてもらう。


「――――我、神童の名に於いて、母である神との接続を開始する」


 魔力の渦が俺を中心として巻き上がる。今までと少し違う感覚に少し疑問が出てきたが、なんとなく悪いことではないと直感的に理解したのでそのまま詠唱を続ける。


「偉大なる魔法の神であるアテナよ。我の声を聞き、どうかこの手に神殺しの象徴である伝説を」


 雲を切り裂き、空から一つの光が一直線に俺に向かって降り注ぐ。


「解放、そして顕現せよ」


『頑張って、私の愛し子。君ならやれる』


「神器解放、久しぶりだな。相棒」


 その手に握るは白銀の杖。神殺しを為したアテナの武器である、ロンギヌスの欠片。


「これが、あの神器……」


星堕準備サンセット


 そして、太陽が浮かび上がった。











 行軍を続けていたアレシオン軍だが、先頭が足を急に止めてしまったので、止まらざるを得ない状況になってしまった。


「………」


 兵士たちは、何も喋る様子はない。全員、目がどこか虚ろでただただ与えられた『ジャパニカを攻める』という命令を忠実に遂行する。


 だがしかし、あまりにも異常な光景が、虚ろな兵士たちは足を止めざるしか出来なかった。


 なぜなら、これから攻める予定のジャパニカ防壁の上に、人が立っていたから。


 アレシオン10万に対し、まさかの防衛に出てきたのはのみ。その事実に、一瞬だけ足を止めたが問題なしと判断して行軍を再開しようとした瞬間――――太陽が浮かび上がった。


 大きさ、数、どれをとっても異常。一発で、この人数を吹き飛ばす気があることを、兵士たちは気づかない。


 意識があり、逃げ惑えることが出来たらどれだけ良かったか。もしかしたら、逃げれるという可能性がほんの少しだけあったかもしれない。


 だけど、意志のない人形は進むのみ。


 ――――さぁ、太陽の蹂躙が始まる。


太陽の嘶きアトミックフレア


 そして、太陽が星へと堕ちた。高音により、肉体は一瞬にして焼かれて灰すらも残らない。叫び声をあげることも許されず、ただただ無意味に滅ぶのみ。


 アレシオン軍は、ジャパニカに踏み入ることも、一切の抵抗も許すことなく、消えていったのであった。







「うわぁ……」


 その声はアリスからかルーナからか、はたまたエリメラ様からかは分からないが、これだけ分かった。


 なにこれ、やりすぎじゃね?と。


 確かに、今眼下に広がるのは兵士ではなく巨大な穴である。一度で全て倒せたのはいいがこれは………


「やりすぎたな……」


「いやいや、別にいいじゃないんかと私は思うよ」


「そうですか?ありがとうございま――――」


 知らない声に動きが止まる。ゆっくりと後ろを向くと、俺に寄りかかるようにふよふよと浮いている人と目が合った。


 この状態だと顔しか分からないが、おそらく髪は長め。白銀の瞳からはどこか安心感とも懐かしさとも言える感情が感じとれ、無意識のうちに警戒を解いてしまう。


 だがしかし、これだけは言いたい。


「え、誰?」


 俺の代わりに、ルーナが一足早くこの場にいる誰もが思ったことを言ってくれた。


 ………え、この人マジで誰?どうやってここにいる?というかいつの間に俺に触れていた?


 薄くなっていた警戒心がじわりじわりと上がっていく。


「こら、そんなに警戒心を上げなくてもいいじゃないか、私の愛し子」


「いや、そんな事言われても普通警戒――――私の愛し子?」


 このフレーズ、何やらどこかで聞いたような気がする。それに、この声もどこか既視感がある。


 愛し子……?俺にはちゃんと母さんがいるが決してこの人ではない。まず俺の母さんは俺の事を愛し子とは呼ばない。


 えぇ……?マジで誰?というかなんてこの人常に浮いてるの?


 俺達三人の視線が突き刺さると、見知らぬ女性はわざとらしくため息を吐いた。


「この三人にはともかく、愛し子には私の事に気づいて欲しかったんだけどね――――仕方ないかな」


「何を言って――――!」


 パチン!と女性が指を鳴らすと、景色が一気に移り変わり、そこら中に色とりどりの花たちが咲く不思議な景色に変化していた。


「っ、これ、転移魔法!?」


「一瞬……しかも、発動予兆が全く見えなかった……」


「ようこそ、愛し子と妻たちと王女。私の楽園へ―――私の名前はアテナ。君たちが魔法の神として崇め、ティルファを愛し、神童にした神だ」


 …………え?





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新作………新作?まぁ作品ではあるのでまたまた新作です。

『【悲報】ワイの転生先が色々溢れるヤバめな異世界について『助けて』』


掲示板小説です。

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