第8話

「10万か……」


 本当に本気でこの街を取りに来てるなこれ。


「行ける?」


「そりゃもちろん」


 マイの心配そうな瞳に速攻で頷きで返す。別に10万も人がいると言っても全員有象無象だろ?なら一人を相手にするのと変わらんだろ。


 ただ、ちょっと規模が大きくなって、そこら辺の地形変えてしまうかもしれんが……まぁいいか。


「じゃあ早速迎撃するか?」


「うん。出来ればお願いしてもいいかな。早くみんなの不安を取り除いて上げたいから」


 そう言って、街並みを見下ろすマイ。


「分かった。そういうことなら早く対応しよう」


「ありがとうティルファくん!大好き!」


「こらこらこら」


 俺たちまだ出会って二日でしょうが。


「……あの、ティルファ様はいつも……?」


「そうなのよ。気づいたら知らない女の人引っ掛けていつの間にかお嫁さん候補にしているのよ」


「ですが、ティルファさんに惚れるのも仕方ないですので、ここは私達が本妻の余裕というものを――――」


「こらこらこらこら!」


 ちょっとそこ三人!別に狙ってやってる訳じゃないから!










「………」


「メリウスさん、どうしました?浮かない顔をして」


「あ、ラミュエールさん……」


 ディルソフ邸にて、何やら浮かない顔をしていたメリウスは、長い金髪をなびかせたラミュエールと遭遇した。


 学園の方は、先生であるティルファ達が戦争のために出張っているので半日で終了。従って、現在お世話になっているこの家へと帰ってきたのだが、メリウスの顔はどこか不安だ。


「先生は――――ティルファさんは、今、戦争……に、行ってるんですよね」


「はい。お義父様の話によると、今はジャパニカで10万人の兵士の相手をしているかと」


「そう、ですか……」


「不安ですか?ティルファ様が怪我をしてしまうのではないかと」


「それは心配してないんです。だって、先せ――――ティルファさんが怪我をするとか、絶対にありえないです」


 メリウスにとって、最強という名に相応しいのはティルファだ。例え、メルジーナが『氷の女帝』やら、『最凶の魔女』やら世間から言われていようが関係ない。


 彼女の一番は全てティルファにへと向けられる。強さも、そして愛情すらも。


「私は……ティルファさんに『協力してくれ』と言われないことが、不安なんです」


「まぁ」


 その事に、ラミュエールが驚いた声を出す。


 確かに、メリウスは昔と比べて強くなったことは誰もが知っている。魔法を使えない『無能姫』と呼ばれていたあの時の面影は既に存在せず、立派な神童の卵として新しい人生を歩んでいる。


「神童にもなって、対抗試合でもMVPを取って、そして神器にも認められたんです」


「そうですね。メリウスさんの頑張りは私も知ってます。見ましたから」


 ラミュエールは、夢でティルファの人生を追体験してきたので、メリウスのことはティルファと同じくらい知っている。


「だから、私も先生のお役に立ちたくて着いていくと言ったんですけど……」


 ティルファの袖を掴み、私も連れていって下さいと言ったメリウス。ティルファは、そんなメリウスのことを抱きしめ、頭を撫でてこう言った。


 ――――ダメだ。お前にはまだ早い。


「……一つ、言いたいことがあるのですが、私も貴方と同じように行動しました」


「え……」


「私はこれでも聖女です。回復の魔法だってアンナさんと比べたらまだまだですが、それなりに自信はあります……だから私もお供しますと言ったんですが、同じようなセリフを言われました」


 えぇ、ちょっとあれはショックでした、と呟くラミュエール。しかし、とこの言葉続く。


「このセリフ、内容は違いますがフィアンお義姉様にも言っています」


「えぇ!?」


「要するに、ティルファ様は私たちの事を想ってくれているのです。怪我をさせたくない。大切だから安全な場所にいて欲しい……あの方は、少しでも身の危険がある場所に私達を連れていきたくなかったのでしょうね」


 ラミュエールは、メリウスの頭を撫でる。


「だから、そんな不安な顔をしないでください」


「ラミュエールさん……はい、その話を聞いて、安心しました」


「ふふ、それは良かったです」


 憂いの消えたメリウスを見て、笑顔を浮かべるラミュエール。


「しかし、不安に思っていることは確かなので―――メリウスさん、少しティルファ様へ仕返しをしませんか?」


「仕返し、ですか?」


「えぇ、今夜辺り。夜這いでも」






「ぶえっくし!」


「あら、どうしたの?」


「いや、なんか誰かが噂してるような気が……」


 というかなんかとてつもなく嫌な予感がするのは気のせいか?


「……うわぁ、あんなに遠くにいるのにここからでも見えます」


 遠目に見えるのは、アレシオン軍10万の兵士たち。俺達は現在、ジャパニカの防壁の上にいるのだが……上から見ているとしてもあんなに遠くの軍勢が見えるのは異常だ。


 だが、俺たちがやることは変わらない。早く終わらせて、心配させなようにメリウス達の顔でも見に行きたいし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る