第2話

「申し訳ありません。お見苦しい姿を見せました」


「「「……………」」」


 対面のソファーに座り、ニコリと笑う聖女様。チラリと視線を横に動かせば、足をピクピクとさせて倒れ伏しているおっさん共の姿。


 なにこれ。ある意味地獄絵図なんだけど。


 ちなみに、足をピクピクさせている理由は、痺れまくった足を目の前にいる聖女様につんつんされまくったせいである。


「………ま、とりあえず色々とお聞かせ願いましょうかね、聖女様?」


「ラミュエールでよろしいですよ。これからこの身は、あなた様のためだけにあるのですから」


 あのさ、俺と君出会ったのは今日が初めてよ?七日前にあったけどアレはカウントしないことにする。なしてこんなにも最初から好感度高いの。


「ねぇ聖女様。あなたはどうして今日初めて会うのに等しいティルファのことをそんなに想っているの?」


「えぇ、ティルファ様に会うのは今日が初めて……でも、私は夢の中で何度も何度もティルファ様に会っているのです。一方通行、ですが」


「……えと、どういうことですか?」


 聖女は、この世で唯一神の声を聞くことが出来る存在だ。予言に従い、この世をよりよくするために動く他に、自身の運命すらも神に決めてもらうということをしているとルドルフ兄さんに聞いたことがある。


「夢枕、と言ったところか」


「流石ですティルファ様。博識でございますね」


「やめてくれ。兄さんから聞いたことがあるだけだ」


 夢枕。神様が夢の中でお告げをしたりする聖女特有の現象。聖女はこれを見ることで世界を滅亡の危機から救ったり、働きをかけている。


「……なるほどな」


 つまり、これでハッキリと分かった。聖女は自身の伴侶となる人間は神が決めると何かのアレに書いてあったような気がする。


 夢に俺が出る。ということは、俺が今代の聖女の花婿と言ったところか。


「……俺、今初めて神に愛されてることに後悔してる」


「私は嬉しいですよ。こうして素敵なお方に出会え、恋を知ったのですから」


「……そう、つまりアレなのね。あなたもティルファのお嫁さんになりたいということなのね………」


「はい。夢でティルファさんの人生は一通り体験しましたので、性格、好きな食べ物など、諸々と知っておりますよ」


「おうちょっと待て。なんだそれ」


 え?夢で俺の人生一通り体験した?どゆこと?


「特に、あのクズ勇者の足をわざと引っ張る案には私、物凄い感心しておりました。何度実態のないあの顔面に向かって聖女パンチを繰り出したことか……」


 聖女様はシュッ、シュッとシャドーで打ち出しながら拳を震わせていた。ということは……俺のストレスでちょっと頭おかしくなったあれも見てた……ということだよな?


 あと聖女パンチって何。


「………あなた、よく分かってるじゃない」


「ですです。これから仲間ですね。よろしくお願いします」


 そして、奴の被害者であるアリスとルーナが物凄い優しい目をして聖女様の隣に移動して手を握り始めた。おうちょっと待て嫁さんズ。


「ティルファ!こんないい子滅多に居ないわ!とっとと娶りなさい!」


「お前それでええんか」


 とりあえず、お友達から始めました。










 未だ痺れでピクピクしているおっさん共に「嫁入りします。探さないでください」という紙を突きつけたラミュエール―――そう呼べと言われた―――は、俺の後ろの方で楽しそうにアリスとルーナと喋っている。主にあのクズの悪口で。


「私、夢だから良かったですけどよく耐えれましたよね。私なら絶対に潰します」


「分かるわ。えぇ、ものすごくよく分かるわ」


「まぁ、当時はやむを得ない事情がありまして………」


 ………気苦労が増えるなぁ。


 そんなことを思いながら、対抗試合も終わり人が居なくなった会場から出る。そこには既に人の姿はほとんどおらず閑散としていた。先程まで何万人と嘘のようである。


 そんなことを考えているうちに、待ってもらっていたメリウスが目に入る。そういや、逆プロポーズの返事返してなかったなぁとぼんやりと思考放棄気味に考え、メリウスが嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。


「先生!私――――」


「あら、MVP賞のお方ですね」


「――――――」


 ひょこっ、と俺の後ろから顔を出したラミュエールを見てカチン、と固まるメリウス。カレンが「え!?」というような顔をし、フィアン姉さんが「あら」というような顔した後に、全てを察したような顔になった。


「ふ、増えてるぅぅぅぅぅ!!」


 メリウスの声が誰もいない広場に響いた。

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