聖女と海
第1話
「初めまして、ではないですねティルファ様……お久しぶりです……」
「……」
「あんた……いつの間に聖女様と……」
「大胆、ですね。ついさっきメリウスちゃんに逆プロポーズされたばっかりなのに、新しいお嫁さん候補……」
ただいま現在、俺は七日前の出会いが初めてである聖女、ラミュエール様に何故か抱きつかれており、俺は顔を上に向けて表情が完璧に抜け落ちていた。
事の発端は、五分前に遡る。
メリウスにまさかの逆プロポーズをされ、完璧に外堀もガッチリと埋められ、末永くよろしくお願いされ、責任を取る事にした俺だが、色んな意味で盛り上がる会場から、メリウスとカレンをそそくさと回収してから抜け出そうと行動していた俺だが――――
「……誰ですか?」
アリスが人の気配に気づいて声を出す。俺は別に害がないならそのまま放置して帰ろうとしていたが、まぁ流石に十数人に囲まれてるなら何事?と思うだろうな。
「ほう、我々の気配に気がつくとは。なかなかやりますな」
姿を現したのは、アイセーヌのローブを着た謎の老人達。異様な雰囲気にアリスが剣に手が伸び始め、ルーナも杖に手が伸び始めた。
「なに、手荒なことはしませんよ。ティルファ・ディルソフ殿。聖女様がお呼びです。是非我々に着いてきてもらいたい」
「なら、その殺気しまいな。明らかに人に向けていいものじゃねぇぞ」
すっごいさっきから俺に限定して殺気送ってるのよこの人たち。なに、俺なんかしたの?アイセーヌとの繋がりとか初日に知り合ったメアルくらいしかないぞ?
「……ほほ、これは失礼。だがしかし、我々にも許せるものと許せないものがございましてな」
「いや、あんた達の事情とか知るかよ……それで?これに拒否権はあるのか?」
「ありませんよ。なぜなら――――」
「下がれ、ルーナ、アリス。こいつらの狙いは俺だ」
目の前のおっさんの拳が顔面に飛んできたため、軽く首を捻って躱す。
「無理やり連れていきます。我々の恨みも込めてぇぇぇ!!」
「ぶち転がす」
二分後。廊下にはパンパンと汗一つもかかないで手を叩く俺と、地に付すおっさん共の構図が出来上がった。
「ぐぬっ……こんな素人の小僧に!」
「素人だよ。体術は習ってねぇし」
だがしかし、俺は魔法を存分に活かし、身体強化のゴリ押ししてるからな。技はなかろうが力でねじ伏せることは充分可能なんだよ。
あと、恨みってなんだ本当に。
「さてと、聖女様の所行くぞ」
「行くの?」
「あんなに魔力垂れ流してたら来てくださいって言ってるようなもんだろ」
先程から嫌って程に感じる聖女の魔力。一言文句でも言わないと気が済まない。
と、言うことで聖女様が待っている所に来たわけで、現在に至る。なしてぇ……?なしてこうなったん……?
「……とりあえず聖女様。離れてもらっていいですかね?」
「嫌です♪」
なんでやねん。
「聖女様!ご無事ですか―――なっ!?」
外からドタドタと強い足音が聞こえ、この部屋のドアをバンッ!と勢いよく開けると、先ほど俺に一番最初に殴りかかってきたやつがいた。回復早かったな。後二分はそのまま転がってたはずなんだが。
「……まぁアルフレッド!どうしてそんなにボロボロなのですか!?」
俺に抱きついたまま、アルフレッドと呼ばれたに聞いた。俺がボコボコにしたからなんだけど。
「い、いえ……それはその……」
「……まさか、ティルファ様を本当にボコボコにしてから連れてこようとしていたのですか!?私の旦那様に!?」
「え」
ちょっと待って。それは初耳。
「し、しかし!私たちに取ってラミュエール様は聖女である前に、私たちの娘みたいなものなのです!そんな何人も女をはべらせているやつに、聖女様を嫁に出すなど、例え神が認めても我らが許しませぬぞ!」
「お黙りなさいアルフレッド!正座です正座!お説教です!」
ぷんぷん!という効果音が着きそうな怒り方をする聖女様。それで――――
「え、俺達このまま放置?」
「帰る?」
「さ、流石にそれはやめておいた方が………」
ガミガミと始まった説教を横目に、俺たちはなんとも言えない感じでその説教が終わるのを待っていた。
シュールなのは、俺たちとそう変わらない年代の娘が、六十を超えたおっさん共に正座をさせていることで、時間が経つ事に正座の被害者が増えていった。
「だいたい!私言いましたよね!?ダメですよって!普通に連れてきてくださいって言いましたよね!」
「し、しかし聖女様!」
「言い訳無用問答無用です!文句言うならそろそろ痺れてくる足つんつんしますから!」
「これいつ終わんの?」
とりあえず早くしてくれない?メリウスとカレン待ってるのよ。一応姉さんに魔法手紙使ってこのことは説明してるけどさ。
結局、説教は五分ほど続いた。何回か足をつんつんされてた。
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