第3話

 訓練場に移動した俺たちは、後ろの方でアップを始めたアリスを尻目に、ルールの確認を行う。アリスには昨日説明しておいているので、メリウスとカレンにだけ説明をする。


「それじゃ、ルールはここの訓練場全部を使った鬼ごっこだ。あそこの観客席を使うのもよし、控え室や倉庫に言って隠れるのもよし、ただし、壊すのと、訓練場から出ることは禁止だ」


「あの、攻撃魔法を使うのは大丈夫ですか?」


「勿論、捕まらないために必要だから大丈夫だぞ。メルジーナ様もそのために神童の権能である魔法無効化をオフにしてるし」


 神童は未だに分かっていないことが多すぎる。産まれてくる絶対数が少ないということもあるのだが、そもそも『どこまで出来るのか』ということを本人さえ把握出来ていないのだから、これだけで神童という存在は桁違いなのだ。


 その点で言えば、メルジーナ様は自身の才能を驚く程に掌握しており、自分が出来ることは全て把握し、さらにその才能を伸ばそうと研鑽も積んでいる。


 ほんと、あの人は一体どこまで強くなるおつもりなのだろうか。


「制限時間は30分間。この時間アリスからしっかりとに逃げきれれば、予選突破は確実だ」


 この二人ならば、知識面で落ちるということはほとんど無いだろうからな。


「ティルファさーん!準備終わりました!」


「アリス、あの指輪は外しておけよ」


「分かりましたー!」


 あの指輪とは、俺がここに戻ってくる前に、ジャポニカの街で送った指輪のことである。あの指輪には俺の魔力がこもっていて自動的に魔法を無効化しちゃうからな、魔法で抵抗されてもゴリ押しで突破されるからダメだ。


 なので、アリスには新しく腕輪の方を送っている。そちらの方は純粋に身体強化の魔法を大幅に強化させる効果しかないので、これでいつもの実力を十分に出せる。


「頑張ろうね、メリウスちゃん」


「うん……それに、私だって神童なんだから、先生みたいに……」


「……あー、アリス」


「?どうしました?」


 俺は先程のメリウスの言葉を聞き、チョイチョイっと手招きをする。


 メリウス達に聞かれないように、アリスの耳元まで口を持っていき、耳元で囁いた。


「少し指示を変えるが、できるだけメリウスの方を先に狙ってくれ。あの子、このままだとちょっとやばい事になる」


「……よくわからないですけど、分かりました」


 こくんと頷いたのを見てから、俺はアリスから離れて観客席の方へ向かう。スタートと終わりの合図はアリスがするので、あとは俺は見守るだけである。


「………それで、なんで姉さんがここにいるの?」


「暇だったから」


 頭の中でアンナが頭を抑えている光景が過ぎった。俺が姉さんの代わりに謝っておく。ごめん、アンナ。


「それにしても、中々酷な指示を出すのね、ティルファ」


 観客席に座ると、視界からアリス達の姿が一瞬で消えた。どうやらスタートしたようだ。


「仕方ない。実際、あれを迎えたらどうやって天狗の鼻を折ることに悩んでいたかは、今でラッキー程度に思っておこう………それに、あの時の記憶は俺と姉さんにとっても黒歴史だろ?」


「あー……まぁ、うん。そうだね。あまり思い出しくはないかなぁ……」


 と、2人揃って遠い目をする。


 神童には、常人よりも遥かに恵まれた才能を持って産まれてくるのだが、神童になったのなら誰しもが避けることは出来ない黒歴史みちが存在している。


「メルジーナ様命名『調子こ期』。この一回でしっかりと治ってくれればいいんだけどな」


 調子こ期とは、簡単に言えばある程度神童の力をコントロールできるようになってきた子供に必ず発生し、「やっべ、俺天才じゃん」と調子に乗り天狗になる時期のことである。


 精神が未熟で、子供の時だからこそ発生するのだが、メリウスは今の今まで神童としての実力が発揮出来なかったから、今の時期にこの調子こ期に突入したのだろう。


 これに突入したというお知らせのキーワードは、『神童だから』である。俺と姉さんは同時期に発症し、メルジーナ様にボコボコにされてしっかりと終わったが、あれはかなりの黒歴史だ。二度と思い出したくはない。神童の才能はそりゃ強力だけど、それに胡座をかいてはダメですよと言うことを教えなくてはならない。

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