第9話

「………あれ?」


 あれ?気絶?これはちょっと予想外なんだが。


 前に俺の相棒を出したのは、悪魔騒動のときで、明らかに相対して、こいつの方があの残念臭漂うウルゴスよりも強いと分かるのに……。あいつでさえ気絶しなかったんだぞ?


 ……まぁいいか。これで多少は処理しやすくなったからな。とっととこいつを殺してもいいが、こいつはキシニョフの人間だ。


「なぁ、メリウス」


「な、なんですか?」


 ここにちょうどキシニョフの姫君がいるからな。こいつの処断はメリウスに任せようではないか。


「こいつ、どうする?」


「殺っちゃってください」


 即答だった。なんなら言い終わった瞬間に被せて言ってきた。どうやら相当こいつに対して怒りが溜まっているようである。


「……ちょっと待とうな?メリウス。お前を狙った奴とか気にならないの?」


「気になりますけど、この人は女の敵です。だから早く殺っちゃってください先生」


 殺意が凄かった。まぁそうだよなぁ……メリウスに消えない傷を付けそうになったからなぁ。


 じゃあ殺すか。別に、どうせまだまだ繋がっている奴はいるんだから、背後関係はそいつから尋問すればいいだろう。


 少なくとも、俺がいた時は刺客は二人いたんだから。


「……あんま見るなよ」


「いえ、いずれは見なければいけないのですから、見ておきます」


 まだ、メリウスに人が死ぬところを見るのは早いと思ったのだが、それはメリウスによって拒否され、強い意志を持った目で俺を見る。


「……そうか」


 それならば、俺は何も言わない。


『さぁ、審判の時だ』


 できるだけ、ショッキングな光景にしないようにしよう。


 そう思ったと同時に、俺の体の中に別の意識がスっと混じりこんだ。








「ただいま」


「おかえりなさい、ティルファ」


「せ、先生!メリウスちゃんは――――」


「シッ、カレン。静かにしておいてな」


 ディルクロッド家に戻ってくると、カレンが慌てて駆け寄ってきたが、緊張が解けて一気に疲労が来たので、俺の腕の中で寝てしまった。


 帰りは、メリウスを起こさないように少々ゆっくりめで来たので、遅くなってしまったのだが、もしかして二人はずっとここにいたのだろうか?


「もうご飯は食べたか?」


「えぇ、途中でアリスが持ってきてくれたわ。ティルファの分もアリスが用意してくれているから、行ってらっしゃい」


「先生、あんな美人さんを三人もお嫁さんにしているなんてすごいですね!あ、メリウスちゃん預かります!」


「え?いや、別に俺がこのままメリウスが寝泊まりする部屋に運んでもいいんだが」


「ダメです!アリスさんが待ってますから!さ、渡してくださーい」


 と、これ以上言っても絶対に引かなそうだったので、ゆっくりとカレンにメリウスを渡す。「うわっ、軽っ」と俺と同じように横抱きにしたカレンが呟いた。


「それじゃあティルファ。私は案内してくるから、食堂にむかってね」


「おう」


 また明日、と手を振るルーナを見送り、俺は食堂へ行く。


「あ、ティルファさん」


「アリス」


 しかし、向かう途中でアリスとばったりであった。俺のを見ると、嬉しそうにこちらに近づいてきた。可愛い。


「食堂にいるじゃなかったのか?」


「えへへ……その……なんといいますか……早くティルファさんに会いたいなぁ~って思っちゃいまして……迎えに来ました」


 と、ツインテールの髪を指でくるくると弄びながら少し頬を紅く染めた。


 なんだ俺の嫁。可愛すぎかよ。


「そっか……ありがとな、アリス」


「いえ、礼には及びません!ですが……その……」


 と、アリスは俺の隣にやったきて、おずおずと俺の腕を抱きしめる。


「……二人っきりになって甘えるのは久しぶりなので、今日はたくさん甘えてもいいですか……?」


「そう……だな。そういえば、結婚したけど夫婦らしいことなんて全くしてなかったな」


 最近とか、ちょっと忙しかったから夫婦らしいことなんて姉さんとしかやってないな。


「アリスの気が済むまで、たくさん甘えていいぞ」


「えへへ…………ありがとうございます、ティルファさん。大好きです」


「あぁ、俺も大好きだぞ」


 自然と顔が近づいて、キスをする。んっ、と声が漏れたアリスがとても愛おしかった。


「食事、食べさせてあげますね」


「そりゃ、楽しみだな」



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皆さんがこれを読んでから新作に飛んでくれたおかげで、初動で100人近い人が読んでくれました!嬉しい!


新作連載中です!皆さん大好きなファンタジーものですのでよろしくお願いします!

『キミは、世界で一番すごい英雄さん』

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