王子は魔王に乗っ取られていた

 

「シア!?」

「え、何でお前がここに居るんだ!?」


 王の間に駆け込んで来たのは、幼馴染であり聖騎士の長を務めているシアだった。そもそもシアはフィアの護衛として付いていたはずだよな? 何で別々で行動しているんだ?


「って聖女様!?」

「隊長! 勇者様も到着しているようです!」

「そのようだな」


 シアと一緒に王の間に駆け込んで来た聖騎士が状況を見ながら、こちらに近付いて来た。


「シア。何でお前はフィアと一緒に居なかったんだ? 確か護衛として付いて行ったと思っていたのだけど」

「う、あ…えっと、そのだな」

「お姉ちゃんは悪くありません。私が悪いのです!」

「え、どういう事だ?」


 渡した魔力回復薬を飲み終えたのかフィアが話に入ってきた。

 と言うか、何か状況的に俺がシアを責めているみたいじゃないか? ただ、どうしてフィアが一人になったのかを聞きたかっただけなのだが、フィアが割って入って来るってことは確実にそう見えるってことだよな?


「馬車の中で待機していたら突然ここに飛ばされたのです」

「おそらく転移系の魔法だ。まさか王都の外にお手も手を出されると想定していなかった」

「まじかよ」


 嘘だろ? ここから王都の外までって余裕で1キロは離れているはずなんだが。


「しかも、王都への偵察から戻って来て、その報告の際にやられた」

「なるほど、それは仕方がない」


 さすがに想定外すぎるし、相手が見えない状況で相手の攻撃を躱せと言うのが無茶だ。しかも、魔法は発動してから効果を発揮するまでが短い物が大半だからな。その代わり発動させるまで時間が掛かる物も多いけど。


「おーい。すまないがそこで話していないで、こちらを手伝ってくれないかな!」

「あ!」


 ヤバイ。勇者が王子と対峙しているのを忘れていた。


「そもそも王子はどうしたんだよ。さっきの事と言い、何でこっちに攻撃をして来るんだ? いくら勇者のことが気に食わなかったからって、前はここまでの事はしなかっただろう?」

「あ、あのお兄ちゃん。あれは王子ではなく魔王みたいです」

「はぁ?」


 どういう事だ? あれは王子ではなく魔王? いやいや、見た目が完全に王子なのだけど?


「ああ、通りで王子とは異なる魔力を纏っている訳だ」

「魔王が言っていたことから、たぶん王子の体を乗っ取ったのだと思います」

「えぇ?」


 はい? フィアが言ったことが正しいなら、王子は俺らが知らない内に魔王に体を取られたと言うことか? しかも、乗っ取られたってことは、王子は魔王と戦ったということだよな? 


「まあいい。私は勇者の援護に向かう」

「すいません。回復薬は飲んだのですがまだ魔力が」

「俺も足手纏いにしかならないから後ろに下がっておく」


 本来なら王の間からも出ておくべき何あろうが、既に王宮が魔王の手に落ちているのなら勇者たちの視界に入る範囲に居た方が良いだろう。


「お前らはここで、この2人の護衛をしていろ!」

「「はっ!」」


 今まで口をはさんでこなかった騎士に指示を出してシアは王子、もとい魔王の元に向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る