俺を好きすぎる彼女はヤンデレ匂いフェチ

おひとり

第1話

「……篠崎さん?」


 俺が忘れ物を取りに教室に戻って目にしたのは、俺のコートを制服の上から羽織って匂いを嗅いでいた学園一……いや世界一の美少女であり想い人の篠崎紅愛しのざきくれあの姿だった。


 篠崎紅愛、総資産10兆を超えると言われる篠崎グループの御令嬢で容姿端麗、品行方正な美少女だ。

 腰まで伸びた金髪はさらさらで黄金の如く輝いており、白磁器のような白い肌は肌荒れとは無縁な滑らかさを保っている。整った顔立ちにすっと通った鼻梁、長い睫毛に覆われたサファイアのような美しい瞳。

 成績も優秀で学年では常にトップ、模試では一位という異次元の順位を叩き出したこともある。スポーツでもテニスで全国出場を果たしている程の強者だ。また生徒からの信頼も厚く、僅か1年生にして生徒会長に就任している。

 俺、神谷蒼太かみやそうたのような凡人とは何もかもが違うまさに高嶺の花だ。


 そんな彼女は意識がないかのようにぼーっとしていたのだが、俺が声をかけるとこちらを向き、夕日に負けないくらい顔を真っ赤にした。


「はぇ?か、神谷くん?どうして……」

「それを取りに来たんだけど……使ってた?」

「使う!?い、いえそんな破廉恥な事は決してしていません!つ、使うってそんな……///」

「何を想像して破廉恥って言ったのか分からないけどとりあえず返してもらってもいい?」

「あっ……はい」


 返してもらおうと手を伸ばすと明らかに元気が無くなった篠崎さん。何だか小動物みたいでとても可愛い。庇護欲が唆られるとでも言おうか、愛でたくなる可愛さだ。


 それよりもこの反応……篠崎さんってもしかして俺のことが好きなのか?いや、まだ確信があるわけじゃない。寒かっただけかもしれないし少し探ってみよう。


「…やっぱりいいや。今日はそれ置いてこうと思ってたんだった。そうだったそうだった……そんなことだから寒かったらそれ羽織っててもいいよ篠崎さん。何か生徒会の仕事でもあって残ってたんでしょ?」

「あっ……はい!そ、そうなんです。少し肌寒くてそれでちょうどいいところにこのコートがありまして…勝手に羽織ってしまいすみませんでした」


 その割には机の上に仕事道具が一切置かれてないけどね。篠崎さんは意外とポンコツなのかもしれない。


「いいよいいよ。そのコートも篠崎さんみたいな可愛い人に使われた方が幸せだと思うし、それじゃまた明日!」

「可愛い……は、はい///また明日です」


 教室を出ていき、帰ったと思わせてからこっそりと教室の中を覗く。

 篠崎さんは少しそわそわしていていたが次第に落ち着きを取り戻し、独り言を言い始めた。


「危なかったです……何とか誤魔化せましたが不審に思ってないでしょうか。神谷くんに嫌われたら私生きていけません……」


「大体こんな濃い匂いが染み付いてるものを置いてくのが悪いんです……すぅ……はぁぁ♡♡ん〜やっぱり好きな人の匂いは最高です♡…さてと、生徒会の仕事という嘘までついて作ったこの至福の時間……たっぷり楽しませていただきましょう」


 篠崎さんはそう言ってコートを鼻に押し当てた。袖が余っててめっちゃ可愛い。というか好きな人って……やば、嬉しすぎて死にそう。

両想いということが分かり、ニヤニヤが止まらない俺は篠崎さんの観察を続ける。


「神谷くぅん♡はぁ……♡あなたは本当に罪作りな殿方ですね……んっ♡こんなに私を惚れさせて何をさせようと…すぅ……ふぁ♡好きぃ♡好き好き好きぃ♡♡」


 あの高嶺の花の篠崎さんがあそこまで乱れるなんて……俺の匂い恐るべし。本人に見られてるなんて思ってもないだろう。

 しかし俺は篠崎さんを甘く見ていた……。篠崎さんは恍惚とした表情から一転、こちらをキッと鋭く睨んだ。突然の事態に俺は顔を引っ込めて廊下に座り込む。


「…そこにいるのは誰ですか?素直に出てきて謝れば許します。来ないなら私が行きますよ」


やべっどうしよう……。

 迷っているとガタッと椅子を引く音がした。ま、不味いぞ……取り敢えず逃げねば。


足音を立てないように立ち上がり、隣の教室に逃げ込んで息を殺す。


「………気のせいでしたか。はぁ…神谷くんの匂いを楽しむ時間を無駄にしてしまいました」


 数秒後、ため息を吐いて篠崎さんが教室に戻る。

危なかったな……。これ以上の長居は危険だし撤退しよう。


 教室から出てゆっくりとその場を去る。今日は篠崎さんの新たな一面を見れたし、何より俺を好きだと知れた。今日は盛大に祝おう。



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