無気力な朝。
そこから先は思い出したくもない。ただただ台に飲み込まれていく玉、俺の金。気づいた時には財布の札が無くなっていた。
しばらくはパチンコ台の前でただ呆然としていたが、徐々に自分の現状を理解して、トイレの個室に入って泣いた。比喩ではなく、本当に泣いた。給料が全てなくなって、ここから給料日までの二週間、本当にどうしようもないのではないかと考えると、どうしようもなく暗い気持ちになった。
いつもは煩く感じるパチンコ屋特有の音も、すすり泣いたこの時ばかりは感謝さえした。一方で、「神様にお願いしたって何も変わりはしない。今日からは絶対に神様なんて信じない」と、今思えばお門違いな八つ当たり的感情も湧き出して、止まらなかった。
十分くらいだろうか、そのくらいしてくると少し落ち着いてきて、なんとか帰路に就いた。
帰り道、薬局に立ち寄って高い度数の安酒を三瓶、なけなしの五百円玉を崩して買った。家に向かいながらの道程で一瓶飲み干して、寝ぐらにしているボロアパートの一室に転がり込むと、風呂にも入らずさらに一瓶一気飲みした。
ここから現在に至るまでの記憶は、この二瓶目を境に曖昧なものとなっている。
毛布から顔を出して部屋の惨状を確認しておこうと試みたが、想像していたより酷くはなく、誰かに迷惑をかけたりなどはなさそうであった。代わりに無造作に散らかされた吸い殻と空き瓶が、物の少ない部屋の中で異様に浮いているように見えた。
俺は、毛布から這い出て瓶からこぼれた吸い殻を瓶にねじ込み、散らばった煙草の灰を払った。それほど綺麗になってはいないが、一仕事終えたような気分になった。
今日の予定や時刻を確認しようと、スマホを探すと、枕元に放り出されていた。手にとって画面を付けると、寝ている最中に頭を置いたらしく、頬の形に皮脂汚れがついて、汚い虹色に光った。
「予定は、無しか……」
自分自身に浸透させるように、呟いた。俺の予定とは、生命線にしているバイトのシフト以外は存在しておらず、それが無いということは必然、予定は無いということになる。
時刻も同時に確認したが、存外早めの時刻、午前九時をまわったところであった。
窓の外に目を向けると、春らしい、刺すような陽気が、視界に煩く感じた。
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