誘惑に負ける。

 ポケットから愛煙の銘柄の煙草を取り出し、百円ライターで火をつけて一服。深呼吸するように煙を吐き出すと、これまた格別の美味しさを感じた。程よい苦味、その奥底に確かに存在する微かな甘味と酸味が、コーヒーにも煙草にも共通して素晴らしい点だと感じた。


 煙草の灰を備え付けの灰皿に落とすと、煙草のフィルター部分にコーヒーの茶色が付着しているのが見えた。


 ふと、ここで勝負をやめてしまって良いのかと自問した。確かに、表記上は今日使った金額の半分は返ってきている。しかし、それは言葉通りに表記上でしかない。パチンコの場合、実際の出玉は表示されている数量よりも少なくなる。その上、換金した際のことを考えると、さらに手にできる金額は少なくなるだろう。


 今日は、競馬の運は悪かったが、パチンコの方は幸運なのではないか?


 昨日の俺は、そう思った。しかし、心のどこかに冷静な俺もいて、「また金を減らすだけだ。やめておけ」という考えも、同時に頭の中を巡っていた。


 煙草、コーヒー、煙草と、考えながら繰り返していると、気づけば煙草の灰が一センチ以上溜まっていて、慌てて灰皿に落とした。同時に、コーヒーの方も最後の一口を飲み干し、足が向くまま先ほどの台の席へと着席をし、とりあえず上皿に残っている分だけでも打ってみようと、意気揚々と台のハンドルを捻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る