スペル・マスター 異世界浮世話 召喚されたら本だった!?
三上 山歩
第1話 悠々自適のつもりが……ある日突然!?
「さてと、そろそろ書き始めるかな」
目覚めた布団の上で、入念なストレッチを終えた俺は、キッチンでお湯を沸かしつつ、朝のコーヒーの準備を始めた。
経営者をしていた頃の癖で、俺は朝が早い。
明け方だがまだそとは暗く、明け方の満月の光が部屋の中まで届いていた。
……この時期の満月は「ウルフムーン」って言うんだったか……。
そんな事を思いながら、コーヒーを片手に古びた木製のデスクに座り、これまた古びた……いや歴史を感じさせる非常に重厚でどっしりとした本を開いた。
開かれた白紙のページ……そこに月の光が届く。
コーヒーで人心地ついた俺は、骨董品であろう古びたの万年筆を、これまた骨董品であろう怪しげな小瓶に入ったブルーブラックのインクに浸け、その白紙のページに向かった。
俺の名前は、杉村篤、30才独身である。
大学在学中から小さいながらも会社を起業し、卒業してから少しずつ軌道に乗せ、中堅都市でまあまあの成功を収めた。
そして自分的この成功に納得してしまったとき、何といわゆる燃え尽き症候群になってしまったのである。
……まあ目の届く管理をする以上に大きくなってしまったからもあったのだけど。
その後は、最近多くなってきた今どきの流れ……つまり会社をM&Aし、プチリタイアしたんだ。
ちょうどその頃、遠縁のつてで、ご先祖代々の古民家の管理者を探しているとの話を聞き、これ幸いと名乗り出て、今に至るのである。
この古民家、我が国最大の湖を望む場所に面し、なかなかに良い物件である……古いけど。
どうやらご先祖様、かなりの好事家であったらしく、古民家には骨董的価値のありそうな物が数多くあった。
その骨董品の中で見つけた重厚な本、これを見つけたとき、俺はかねてから思いえがいていた執筆活動をしてみようと一念発起したのである。
会社を引退したら、カフェやバルなんかの飲食店経営か、もしくは執筆活動など、その辺りしてみたかったんだよね。
まあ、この古民家をカフェにしても面白そうだし、これからの悠々自適ライフとしては嬉しい悩みではある。
……とコーヒーの香りの中でこれまでの事を回想しつつ、月に照らされた白紙のページを眺めていたとき、ふと眩暈がした。
「寝起きで血糖値足りてないかな、コーヒーに砂糖でも入れるか……」
沸かしなおしかな、と立ち上がろうとした時、目がチカチカし目の前が白と黒が明滅するなか、
ブラックアウトすると思ったら、本格的な眩暈がし目の前が真っ白に!
俺はその開かれたページに吸い込まれるようにホワイトアウトした……。
『……ふぅ、頭が重い』俺は熟睡しすぎた頭が次第に目覚めていく中で、ぼーっと天井を眺めていた。
『ん?こんな天井だったっけ?まだ夢の中?』そう思いながら俺は、体を起こそうと……『って体が動かない!?やっぱり夢の中か?』でも夢の中にしては頭が冴え過ぎてる……でも体は動かせないのはどういうことだ?
目を閉じ、少し落ち着いてきたので、体は動かせないままも、辺りを見回してみる。
『何だここ?』目だけをぐるりと動かす感じで見回してみると、今朝まで生活していた古民家とは程遠い室内だった。
材質は木造っぽかったが、明らかに洋風建築なつくり。そして左には巨大な鏡がそびえ立つ。『何この鏡?っていうかこの部屋でかくないか?』
もしかして倒れて救急車で運ばれて、そのまま入院?……にしては病室とは明らかに違うような。
ともかく体が動かせない、仕方がないので声を出してみる……しかし思考が流れるだけで声が出てないような気が……そこで叫んでみる。『やっぱり声が出ない!?』
今のところ自分でできるのは見ることと、考え思考を巡らせることと、あとは……。
『……ん?物音が聞こえる、誰かいるのか?』という事は聞くこともできる。
耳をすませていると、足音らしき音がこちらへ向かってくる。視線がそこまで向けられないので、意識を耳に集中する……。
……といきなり右隣に大きな影が!?『何っ!? 人!? というか胸!?』
左にそびえ立つ鏡とは反対側、右側にそびえ立つ巨大な胸……らしきもの。
俺は当然ながら成人男性なので、頭の中でいろんな思考がせめぎ合う中でも、とりあえず胸を凝視した。
男とは単純なもので、己の欲望に忠実に従っていると、いろんな焦りや心配が吹き飛び、気持ちも落ち着いてきた。『さすが三大欲求のひとつ!』
落ち着いて右にそびえ立つ双丘を眺めていると、どうやら今の自分は、胸の下あたりから見上げた状態になっているらしい。
『それにしても綺麗な女性ひとだ』
俺も年齢的に今までに何人かの女性と出会ってきたし、経営者でもあったので、いろんな夜のお付き合いにも参加してきた。
そんな一般男性よりは多い程度には美しい人と出会ってきた俺でも、今見上げている女性が別格の美しさであることは分かる。
おそらく西欧か北欧の人であろうその女性は、艶やかな金色の髪と瞳、そして真っ白な雪肌をしていた。
今は俺の右で髪をといているらしい。
ん!?という事は、左の鏡は化粧鏡!?
俺は今仰向けに寝ている(と思う)訳だけど、もしかして俺は化粧台に寝てる!?
『何この状況!?』
そんな俺の焦りに気づかない女性は綺麗なしぐさで髪をとき、その動きに合わせ、双丘が柔らかく揺れる。
『うわぁ!タプンタプンなお胸だ……』
そして俺はその双丘の動きに目を奪われ……ふぅ、落ち着いてきた。
これは張りだけでなく、もの凄い柔らかさを秘めた巨乳だ。
もちろん裸ではなく、ネグリジェのような薄い衣をまとっているが、もしかしてノーブラ!!!?……なんということでしょう。
!!!やばい!落ち着いていた心が熱く乱れそうなので、深呼吸をし、冷静に考えてみる。
まずここは何処だか分からないが外国人が住んでいる。そして思うにかなり大柄な方のようだ。俺は身長が180センチ少しないくらいなので、見上げると、とても大きく感じる。
俺が住んでいたのは、湖の畔にある古民家で、今朝までの記憶は……ある。
物心ついてからの子供時代、学生時代、経営者であった頃など何も忘れていない。
ん?というより全て思い出せる!
生まれてから目にした、経験した、読んだ、観た、聞いた、触れたものが全て思い出せる……これはおかしい。
思考を巡らせると、まるでデータベースから取り出すように一語一句思い出せる。
しかもパラパラ見た本や流れていたニュースなど全て!
『記憶力が良いとかいうレベルじゃないなこれ……記録だ!』
しばらくの間、過去からの思考の波に漂っていると、急に身体が引き起こされた!
『うおっ!……あれ、鏡が正面に』
鏡には、見上げていた女性が座っている姿が映し出されている。
女性の胸には豪華な本が抱かれている。
そして女性はため息をつきながら、考え事をしているのか時がしばしの間とまる。
俺は改めて正面から女性を眺めることができた。
『やっぱり恐ろしく美人だ!そして美しい巨乳』
せっかく正面から眺められるのでしっかりと目に焼き付けていると、あることに気づく。
『耳の形……おかしくないか?』
女性の耳、その先端がとがっている!?まるで映画やゲームで見たことがあるエルフのように……。
そうしていると女性の独り言が聞こえてきた……が何を言ってるのかさっぱり分からない。
『外国語……じゃなさそうだな、何だか音のように聞こえる』
理解しようと独り言を呟く女性を見つめている俺は、とんでもない違和感に気づく。
『鏡に俺が映ってない!!!?』
……もしかして俺、死んだ?
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