第297話:カナタの可能性

「貴様ああああっ!」


 ゴランが倒れたのを見たリッコが一気に加速する。

 鋭く振り抜かれたアクアウィンドが魔王の右腕を切り落とすと、魔王の表情がピクリと動く。


『ほほう? 我の腕を切り落とすか』

「これくらいじゃ終わらないわよ!」


 リッコが魔王を足止めしている間、カナタはゴランへと駆け出して魔法袋から最高級のポーションを取り出し、彼に振りかけた。


「ぐ、ぐぅぅ……」

「大丈夫ですか、ゴランさん、ゴランさん!」

「俺はもうダメだ、だから……ん? なんだ、傷が、治っている?」


 腹を貫かれたはずだったゴランだが、その傷が一瞬のうちに塞がっている。

 これには傷を受けたゴランも驚きだが、それと同じくらいカナタも驚いていた。


「……えっと、どうやら完全に治っちゃったみたいですね」

「そ、そんなポーションがあっていいわけないだろう!」

『な、何故貴様が動けているのだ!?』


 驚きの声は魔王からも聞こえてきた。


「カナタ君のポーションは最高級だからね! もうポーションと呼んでいい代物じゃないのよ!」

「ならば、俺ももう一度働かなければな!」

「な、なんだか納得していいのか分からないけど、俺もやるぞ!」


 勢いよく立ち上がったゴランが駆け出すと、予想以上の勢いに思わずにやけてしまう。


「これは、いけるぞ!」


 全力でグリンヴァイドを振り下ろすゴラン。

 先ほどのアクアウィンドの切れ味が頭の中に残っていたのか、魔王は何度も受け止めていたゴランの剣を慌てて回避した。


 ――ドゴオオオオンッ!


 ゴランの一撃は大地を揺らし、地面に大きな穴を作るほど強烈なものになっていた。


『……き、貴様ああああっ!!』

「お、俺は何もしてないっての!」


 魔王はカナタを睨みつけながら強烈な殺気を放つ。

 ただポーションを振りかけただけのカナタはどうして自分が睨まれなければという思いだったが、それでも賢者の石で攻撃を仕掛けていく。

 だが、自分で魔王を倒そうとは思っていない。

 これはカナタが戦う時にいつも思っていることだが、今回は特にその思いが強く出ている。

 何せ相手は魔王であり、リッコやゴランよりも強いかもしれない相手である。

 しかし、そんな相手が二人の攻撃を避けただけでなく、その攻撃を見て怒りを露わにしたのだ。

 これは間違いなく二人の攻撃を脅威に感じており、自分は二人のサポートに徹すればいいのだという証拠でもあった。


「賢者の石は壊れない……いいや、壊せないはずだ!」

『ほざけ! この程度の金属、我が壊せぬわけが――!』

「そっちばかり見ていたらあっさり終わらせちゃうわよ!」

『むおっ!?』


 ゴランの速度も上がっているが、リッコは元からこの場にいる誰よりも速い。

 魔王がカナタに気を取られている間に足音を立てず移動し、背後から強襲したのだ。

 そこへゴランの強烈な一撃も交ざってくれば、いくら魔王と言えど無傷でいられるはずもない。


「再生するなら!」

「それよりも早く!」

「お前を倒してみせる!」


 三人が攻撃の手を止めず、時間を掛けることなく一気に終わらせに掛かる。

 だが――伝説の相手である魔王がそう簡単に倒れてくれるはずはなかった。


『くそったれがああああっ!』


 魔王から放たれた大咆哮は、魔力を伴う強烈な衝撃波となり、三人を同時に吹き飛ばしてしまった。

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