第241話:カナタの役目
「――……みんな、行ったのか」
目を覚ましたカナタはテーブルの置き手紙を確認すると小さく笑った。
それぞれが己の役目を理解して動いている。
カナタが目覚めたのはライルグッドたちが出発してから五時間が経過した時だったので、すでに王城の一番高い場所からもその姿を確認することはできない。
それでも思いは同じなのだから、カナタもやるべきことを、自分の役目を果たそうと両頬を叩いて気合いを入れ直す。
「――陛下に謁見をお願いしよう」
部屋の窓から見える風景はすでに暗く、カナタからすると今が何時なのかもわかっていない。
しかし、彼もまた一分一秒が大事になってくることを理解している。そして、ライアンもそのことを当然わかっていた。
部屋のベルを鳴らすと扉の外に控えていたメイドが中に入ってきて、カナタは彼女にライアンへの謁見申請を伝えると、優雅な足取りで去っていく。
それを見届けたカナタは魔法袋を手に取って中身を確認すると、小さく息を吐き出して一気に仕上げた三振りの剣を思い返す。
(……三人とも、あの武器があれば簡単にやられることはないだろう。だけど、心配は心配だ。特にリッコは単身でワーグスタッド領へ向かっている。きっとリタもいるだろうけど、戦力が足りないのは誰が見ても明らかだもんな)
しばらくしてメイドが『すぐに会いたい』というライアンからの返事を持ってきたので、カナタは急ぎ足で廊下を進んでいく。
案内された部屋にはライアンとその他の大臣が数名おり、彼らはカナタのことを訝しむように見ているが、慣れた視線なので彼は全く気にしていなかった。
「体は大丈夫か、カナタよ」
「はい。ご心配をおかけいたしました、陛下」
「よい。早速で申し訳ないのだが、複製は可能だろうか?」
「魔力も十分に回復しているので、問題ありません。騎士団が使用している武具を見せてもらっても構わないでしょうか?」
カナタの言葉にライアンは護衛の近衛騎士に指示を出した。
騎士団が使用している武具、併せて騎士団長を呼び出すよう伝えていたのが聞き取れた。
「……騎士団長もですか?」
「複製で構わん。彼にもシルバーワンを譲ってはもらえないだろうか?」
「シルバーワンをですか?」
ライアンの言葉にカナタは僅かな逡巡のあと、首を横に振った。
「それはできません」
「貴様! 陛下の命に逆らうというのか!」
カナタの返事に異を唱えた大臣の一人が声をあげたが、それをライアンが制した。
「よさないか! ……理由を聞いてもよいだろうか?」
「はい。シルバーワンはライルグッド皇太子殿下に合わせて作った作品です。切れ味や耐久性などは申し分ないかと思いますが、長さや重さ、それらが殿下以外に扱えるかと問われると、正直難しいのではないかと」
「オーダーメイド、ということだな?」
「はい。慣れない武器ほど、戦場では命の危機に直結するのではないかと」
自らも戦場に立ち武功を上げてきたライアンもカナタの言わんとしていることは理解している。
しかし、それを差し引いても大量に保管されている精錬鉄で作られた一等級武具というのは貴重な存在だった。
「……これは提案なのですが、よろしいですか?」
「よい、言ってみよ」
「これから届く騎士団支給の武具を見させていただき、平均的な長さや重さを測り、それに合わせた一等級を作り、複製するのはどうでしょうか?」
カナタの言葉はライアン以外のその場にいる者たちを驚愕させた。
それも当然で、そもそも一等級を作れる職人というのは数十年以上の間、誰一人として出てきていないのだから。
「それは本当ですかな、カナタ殿?」
そこへ声を掛けてきたのは、騎士団の支給武具と共にやってきた騎士団長だった。
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