第222話:煉獄のディブロ③
衝突時の衝撃でマグマが大きく波打ち、賢者の石とヘル・インフェルノを中心に外側へ押し返されていく。
マジックウォールを展開しているものの、衝撃を全て防ぎ切ることはできなかった。
「きゃああああっ!?」
「皆、耐えるんだ!」
「ロタンさんは私の後ろに!」
「カナタ君はこっちへ!」
「わかった!」
全員で支え合い、歯を食いしばりながら衝撃に耐えていく。
『ぎゃははははっ! 死ね! 死ね、死ね! 死ね死ね死ね死ねええええぇぇっ!!』
両手を広げながら呵々大笑するディブロ。
自分の魔法が石ころに負けるはずがないと、すでに勝利を確信しての大笑いだ。
この笑いにも理由があり、ディブロは先ほどの攻防から自分を脅威に陥れるだけの攻撃力を持った相手がいないと分析していた。
唯一、警戒に値する賢者の石も防戦一方であり、このまま魔法を行使し続ければ負けることは絶対にないと考えたのだ。
『ブモオオオオオオオオォォッ!!』
『ちっ! またてめぇか、レッドホエール!』
マグマの中から大きく飛び上がり、巨大な口を開いてディブロを噛み砕こうとしたレッドホエール。
しかし、ディブロは大きく上昇するとレッドホエールの攻撃を回避した。
だが――レッドホエールの目的はディブロではなかった。
『て、てめえっ! まさか、ヘル・インフェルノを!!』
『そなたの魔法――食らわせてもらうぞ!』
大きく開いた口がヘル・インフェルノへ迫ると、そのまま食らいついてしまった。
「レッドホエール!」
『仕方ねぇ、てめえからぶっ殺してやる!』
「やらせるか!」
ヘル・インフェルノが消えたことで、賢者の石は即座に攻勢へ打って出た。
細く、鋭利な槍と化した賢者の石は、一直線にディブロへと迫っていく。
「援護するぞ!」
「了解よ!」
「はいっす!」
ライルグッドが雷魔法を、リッコがマジックブレイドを、リタが火魔法を殺到させてディブロの逃げ道を塞いでいく。
『効くかよおおおおっ!』
しかし、彼らの魔法ではダメージを与えるには至らず、ディブロは魔法が飛んでこようがお構いなく空中を自由に動き回り、賢者の石による攻撃を回避していく。
だが、回避しているということは、賢者の石を恐れているということでもある。
その事実を確認したカナタは、横目で一人の人物を見つめると、一つ小さく息を吐いた。
「リッコ、ライル様、リタ。ここが勝負どころです」
「……結局、頼ることになるのだな」
「まあ、私たちの中では最強の人ですからね」
「私の魔力を、一気に与えるっすよ! カナタ様!」
「あぁ!」
そう口にしたリタは攻撃を止め、その代わりにいまだ目を覚まさない人物――アルフォンスの横に膝をつくと、遅れてカナタもやってきた。
「それにしても、すごい発想っすね――ロタンさん」
リタが声を掛けると、ロタンは何度もまばたきを繰り返しながら顔の前で手を左右に振った。
「そ、そんな! ただ、私は他の冒険者の方がやっていたのを見ただけですから!」
「だとしても、こんな危険な状況で、冷静になって思い出せないっすよ。まさか、自分の魔力を他人に分け与えるだなんて」
魔力には人それぞれ個性が備わっている。
故に、魔力を分け与えるという行為は、相当に似通った魔力を持った者同士でしか成立しない。
ロタンが見たという冒険者も、兄弟でパーティを組んでいた者たちであり、家族は似通った魔力を持つことが多い。
しかし、アルフォンスとロタンでは魔力の質が全く異なっている。
氷と火という、相反する魔力であることもあり、ロタンの魔力をアルフォンスに与えるというのは、彼に大きな負担を強いることになる。
最悪の場合、死に至る可能性だってある行為だ。
しかし、カナタたちはアルフォンスに魔力を分け与えるという選択をした。
「いくっすよ――カナタ様!」
「任せろ! 錬金鍛冶!」
カナタを媒介にすることで魔力の質を変化させ、ロタン、カナタ、アルへと分け与えていく。
これが失敗すれば、恐らくカナタたちはここで死ぬこととなるだろう。
(絶対に、成功させてやる!)
ぶっつけ本番の錬金鍛冶が、ここに始まった。
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