第223話:煉獄のディブロ④

 激しい戦闘を繰り返している中、ディブロは強烈な光と魔力の変化を感知した。


(……ありゃあなんだ? まーた何かやろうとしていやがるのか?)


 無駄なことを、と内心で思いながらも、ディブロは何故か不安を拭えない状態になっていた。


『……ちっ! 俺様があんな奴らに? あり得ねえ!』


 しかし、ディブロは本能よりも自らのプライドに従った。

 人間如きに不安を感じるなどあってはならないと、ならば真正面から全てを叩き潰してやろうと。


『まずはてめぇらからだ! 邪魔な人間ども!』


 魔法と賢者の石の猛攻を潜り抜けたディブロは、一直線にリッコとライルグッドへ迫っていく。

 魔力を分け与えながら熱波を防いでいるリタは、ディブロの接近を防ぐことまで意識が回らない。

 ならばと二人はあえて前に出ることで、ディブロを迎え撃つことにした。


「倒すことは考えるなよ、リッコ!」

「悔しいけど、仕方ないわね!」

『真っ赤な血をぶちまけてやるぜええええっ!』


 ディブロはさらに加速し、追いすがろうとしていた賢者の石を置いてけぼりにしてしまう。

 そのままリッコ目掛けて拳を振り抜くと、今まで感じたことのない衝撃が彼女を襲った。


「ぐぬぬぬぬううううっ!!」

『邪魔をするんじゃねえぞ! 金髪があっ!』

「それは、お互い様だろう!」


 リッコ一人では受け止められなかっただろう一撃を、ライルグッドがアクアコネクトにシルバーワンを重ねることで威力を分散させていた。

 とはいえ、強烈な一撃であることに変わりはなく、地面を大きく削りながら大きく後方へ弾き飛ばされてしまう。


『それなら先にあいつらの血をぶちまけて――ぐおっ!』


 狙いをリッコたちからカナタたちへ変えようとしたタイミングで、賢者の石が自らをしならせて強烈な横薙ぎを見舞った。

 地面と平行に吹き飛んだディブロは壁に激突――する寸前で大きく翼を羽ばたかせ、間一髪で上昇した。


『クソがっ! 魔獣の奴らは何をやっていやがる!』


 思い通りに進まない戦闘に、ディブロは徐々に苛立ちを募らせていく。

 有利であることに変わりはなく、むしろ状況はさらにディブロへと傾いている。


(それなのに……なんでこいつらは生きている! 俺様の攻撃をどうしてしのげているんだ!)


 信じられない、そんな気持ちで今もなお抗い続けている、ゴミと思っていた人間たちを睨みつけた。


『……もういい。遊びは終わりだ』


 そして、ディブロは全てを終わらせることにした。

 認めたくはなかったが、認めざるを得ない。


『……こいつらは、ゴミじゃねぇ』


 だが、人間を見下すという魔族の本性を誤魔化すことはできなかった。


『ゴミの中に巣くう――害虫だ!』


 膨大な魔力がディブロの中で膨れ上がり、周囲の大気が震えていく。

 壁や天井から瓦礫がパラパラと零れ落ち、マグマもボコボコと大量の気泡を弾けさせ始めた。


『こいつは魔力すらも蒸発させる、俺様のとっておきだ! 人間の魔法など、無意味だぜええええっ!!』


 マジックウォールが無意味だと宣言しながら、ディブロはとっておきの魔法を解き放った。


『デスフレイム・プリズン!』


 漆黒の炎で形作られた檻が上空に顕現すると、カナタたちを捕えようと、ゆっくり降下していく。

 その熱量はマグマの比ではなく、まだ上空にあるにもかかわらず、マジックウォールを消失させ始めており、熱波がカナタたちの肌を焼いていく。


『死ねやコラアアアアアアアアッ!』


 勝利を確信したディブロ。

 その表情はすでに下卑た笑みを刻んでおり、笑い声が漏れる寸前にまで来ていた。


「――……アイスワールド」


 そこへ響いてきた、静かで透き通るようなか細い声。

 しかし、その声は間違いなくこの場にいる全員の耳に届いていた。


『なんだ? 今の声……は……ああああぁぁああぁぁ!?』


 直後、全てを蒸発させるはずのデスフレイム・プリズンの漆黒の炎は、一瞬にして凍りついていた。

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