第219話:ボルフェリオ火山⑱

『グルアアアアアアアアァァアアァァ! 畜生がぁ、何をしやがる!!』


 弾け飛んだマグマの中心から怒声を響かせて現れたのは、漆黒の外皮に背中には六枚の翼を持つ人型の生物――カナタたちが魔族と呼んでいる存在だった。


『てめぇら、絶対にぶっ殺してやる!』


 怒りで染まったわけではない、元から真紅に色付いている瞳をぎらつかせ、魔族はカナタたちを空中に浮いたまま見渡した。


「……あれが、魔族」

「……あはは。あれに勝とうっての?」


 ライルグッドとリッコがそれぞれで呟きながら、ギュッと剣の柄を握りしめる。

 それは自然に行われた行為であり、二人の手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。


『ふん! そっちの奴はもう動けないようだな。ならば用はない!』


 人差し指を向けた先にいたのは――アルフォンスだった。


「アル!」

「止めて!」


 ライルグッドとリッコの声も空しく、魔族の指先から漆黒の魔力が放出される。

 真っすぐに伸びた魔力はアルフォンスへと向かっていき、そして――


 ――ドゴオオオオオオオオォォン!


 着弾と同時に地面を揺さぶるほどの爆発が巻き起こり、黒煙が空間に広がっていく。


「くそっ!」

「そんな……カナタ君!」


 爆発は大規模に及んでおり、アルフォンスの近くにいたカナタやリタやロタンも巻き込んでいる。

 二人は助かるはずがない――そう思い込んでいた。


『……ほほう?』

「……や、やらせないっすよ!」

「「リ、リタ!」ちゃん!」


 黒煙の中から聞こえてきた声に、リッコとライルグッドは嬉しそうに声をあげた。

 直後、声だけではなく三匹の炎の蛇が魔族目掛けて宙を進んでいく。


『甘い!』


 しかし、炎の蛇は魔族が右腕を軽く横薙いだだけで弾け飛び、白煙に変わってしまった。


「くっ!」

『貴様が、一番邪魔なようだな!』


 人差し指だけが向けられたのだが、今度は右手を広げられ、全ての指から漆黒の魔力が放出された。


「多重展開マジックウォール!」

「守れ! 賢者の石!」


 膨大な魔力によって顕現されたマジックウォールだけではなく、ピンポイントのサイズで漆黒の魔力を弾き飛ばした賢者の石。

 その光景に魔族は僅かに眉間を動かし、苛立ちを露わにする。


「こっちを!」

「忘れるな!」


 そこへ飛び込んでいったのは、リッコとライルグッドだ。

 鋭い斬撃をもって魔族へ迫ったのだが、魔族が指を軽く鳴らすと、その衝撃波が増幅されて二人へカウンター攻撃が襲い掛かった。


「ぐはっ!」

「こいつ、やるじゃないの!」

『こいつだと? くくくく、なんだ、貴様らは我の存在を知らずに戦いを挑んでいたというのか? 無知! あまりにも無知だな!』


 突如として笑い出した魔族に警戒を強めるリッコとライルグッド。

 リタもいつでも魔法を放てるよう準備をすでに終えている。


「あんたは魔族、それだけでしょう!」

『くくくく、魔族だと? それこそ無知というものだ! 我は魔族だが、それ以上の存在でもある!』

「魔族以上だと? まさか、魔王というわけではあるまいな?」

『魔王様であろう! だがまあ、死んでいく貴様らのために教えておいてやろう!』


 両手を広げて天井を見上げながら、魔族は自らが何者なのかを口にした。


『我は魔王軍の率いる五大魔将の一人! 煉獄のディブロ! 貴様らゴミを消し炭にする我の名をよーく覚えておくんだな!』


 名乗りをあげたディブロが右手を突き上げると、同時にマグマが気泡を弾けさせながら大きく盛り上がった。


『さあ! 死ぬがいいぞ、ゴミどもよ!』


 そのまま右手を振り下ろすと、マグマが一斉にカナタたち目掛けて流れ込んできた。


「アルたちのところへ戻るぞ、リッコ!」

「わかっているわよ!」


 駆け出した二人がカナタたちのもとへ辿り着いたのが先か、それともマグマがリッコたちを飲み込んだのが先か。

 どちらにしても、彼らがいた空間の全てがマグマに飲み込まれてしまったのだった。

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