第220話:煉獄のディブロ①

『ふははははっ! なんだ、このざまか! 貴様もしけた奴らを頼ったものだな、レッドホエールよ!』


 マグマに飲み込まれたカナタたちを見て、ディブロは呵々大笑しながらマグマから顔を覗かせたレッドホエールを見下ろした。


『貴様はこのダンジョンの核だ。だがなぁ、だからといって我が何もしないと思うなよ? 貴様の代わりを別のところから持ってくることも可能なんだからな!』

『……』


 ディブロの言葉に無言のままのレッドホエール。

 彼から逃げ出したいと思う一方で、レッドホエールはすでにダンジョンの核と一つになってしまっている。

 故に、このままダンジョンと共に朽ち果てる未来しか想像できなかった。


『抵抗すらしないのか? まあ、無駄だがなあ! ふははははっ!』


 天井を見上げながら再び笑い声をあげたディブロ――しかし、そこへ別の声が響き渡った。


「フレイムランス!」

『はははは……あぁん?』


 マグマの中から飛び出してきたのは、巨大な炎の槍だった。

 ディブロは翼を羽ばたかせて高度を上げることで回避したが、続けざまに別の魔法が飛び出してくる。


「マジックブレイド!」

「サンダーボルト!」

『ちっ! なんだ、生きていやがったのか!』


 空中を動き回り回避するディブロは舌打ちをしながら悪態をつく。

 すると、先ほどまでカナタたちがいた場所のマグマだけが自然とは異なる波を作り出し、ぽっかりと地面が見える空間になった。


「この杖、すごいですよ、カナタ様!」

「助かったよ、リタ!」

『クソがっ! おい、レッドホエール! 面倒なことをしてくれたじゃねぇか!』

『そなたに言われる筋合いはないがな!』

『てめえ! 口を開いたと思ったらなんだその言い草――ぐわっ!?』


 レッドホエールは気づいていた。マグマを介してカナタたちが生きているということに。

 だからこそ隙を伺いながら罵声を浴び続け、今ここで攻勢に転じた。

 強靭な筋力を活かした尻尾による一撃が奇襲となり、ディブロを弾き飛ばして壁に激突させる。

 鈍い音が響き渡り、激突した壁には蜘蛛の巣状のひびが広がっていく。


『今だ! 人間の子らよ!』


 レッドホエールの合図とともに、リタたちは魔法を殺到させていく。

 壁のひびが段々と広がりを見せていき、ついには天井にまで至っていく。

 それでも攻撃の手を止めないのは、魔族という存在がどれほど強いのか判断できないからだ。

 リッコとライルグッドが限界ギリギリまで魔法を放ち、リタも周囲の熱から魔力を作り出して無尽蔵に魔法を撃ち続ける。

 とはいえ、リタの体力も徐々に限界へと近づいてきている。


「待て!」


 そこでライルグッドが一度手を止めるよう指示を出すと、粉塵が舞い上がる、ディブロがいるだろう場所を見つめた。


「……倒したのか?」

「……わからないわ」

「……あれで倒せなかったら、マジでヤバいっすよ」


 三人が警戒をしたままそう口にしていると、突如として粉塵が勢いよく弾け飛んだ。


 ――ガキンッ!


「「「なあっ!?」」」

『ちっ! なんだ、てめえはっ!!』


 攻撃を仕掛けてきたのは、無傷のディブロ。

 しかし、そのディブロの攻撃を防いだものがあった。


「け、賢者の石!」

『賢者の石だあ? 過去の産物がどうしてこんなところにあるんだあ?』


 そんな言葉を口にしながらもディブロはカナタたちを殺そうと攻撃を仕掛けている。

 だが、その全てを賢者の石に阻まれており、ディブロは徐々に苛立ちを露わにし始めた。


『こいつ、ふざけんじゃねえぞ! 毎回、毎回、邪魔をしやがって! 今回こそは絶対にぶっ潰してやる!』


 ディブロの言葉にカナタは小さな違和感を覚えた。


(……毎回ってどういうことだ? 賢者の石を作ってから今日まで、ディブロとは会ったことすらないんだぞ?)


 そこまで考えたカナタは、ディブロ攻略のカギが賢者の石なのではないかと思い始めた。

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