第213話:ボルフェリオ火山⑫

「……レッドホエール?」


 カナタの呟きにあり得ないという表情を浮かべるライルグッドたち。

 だが、カナタは不思議と間違いないという確信を得ていた。


『……我の声が、聞こえているのか?』

「やっぱり、レッドホエールなのか?」


 カナタの言葉に反応したレッドホエールがさらに言葉を紡ぎ、それに再度の確認を取る。


『如何にも、我はレッドホエール、このマグマの主である』


 レッドホエールの答えはカナタ以外にも届いており、今回はリッコにもはっきりと聞こえていた。


「これ、レッドホエールなの? 魔獣なの?」

「……だいぶ昔の文献ですが、長い間を生きてきた魔獣の中には、人語を介することができる個体が生まれるという話がありました。まさか、ボルフェリオ火山のレッドホエールがそれにあたるということですか?」

『長い間で生きているのかはわからないが、我は間違いなく人語を――ぐうっ!?』


 リッコの驚きにロタンが答えていると、レッドホエールから苦悶の声が漏れた。


「なんだ、どうした!」

『……我の棲み処を、ダンジョンにした存在が、マグマの底にいるのだ! そ奴が我を――ぐがあっ!?』


 さらに苦悶の声が漏れるたび、マグマが大きく波打ちこちらへと迫ってくる。


「さっきの助けてというのは、魔族を倒してくれということか?」

『……そ、その通りだ。あ奴は、我とダンジョン核を繋ぎ合わせ、苦痛を味わわせることで、我を操ろうと……ぐぐあっ!!』

「も、もういい! 喋るな!」

「おそらく、この会話も魔族には筒抜けだろうな」

「ということは、私たちがマグマでは倒せないことも理解しているでしょう」

「次はどういう攻撃を仕掛けてくるかってことね」


 レッドホエールを繋ぎ止めているとはいえ、魔族の自由にできるわけではないと知った今、魔族から攻撃を仕掛けてくることも考えられる。

 それに魔族がマグマの中にいる間はこちらから攻撃を仕掛けることができず、防戦一方となってしまう。

 カナタたちにできることは他にないのか、それを考えなければならなかった。


「最終的にはマグマを全て魔法袋に入れるとしても、その間は何もできません」

「待つしかないということか」

「じれったいわねぇ!」

「……待ってほしいっす。あ、あれはなんっすか!?」


 アルフォンス、ライルグッド、リッコと口を開いていると、何かを見つけたリタが震えた声を漏らした。


「……おいおい、正気か!」

「皆さん! リッコ様のところへ集まってください!」

「ひゃああああっ!?」


 ライルグッドが困惑声を漏らすと、アルフォンスが急いで指示を出し、ロタンは悲鳴をあげながら駆け出していく。


「リタ! なんでもいい、周囲に水をばらまきなさい!」

「は、はいっす! ウォーターボール!」


 大量のウォーターボールを顕現させたリタは、所かまわず打ち出していく。

 熱波やマグマによってすぐに水蒸気へと変わってしまうが、アルフォンスの狙いはそれだった。


「アイスワールド――リミットブレイク!」


 アルフォンスたちを中心に周囲の空気が一気に冷却、地面から巨大な氷の壁が盛り上がっていく。

 それだけではない。ウォーターボールが作り出した水蒸気すらも凍りつかせると、天井に迫る高さの壁を作り上げてしまったのだ。


「く、来るわよ――マグマの塊が!」


 リッコの声が届いたかどうかはわからない。何故なら彼女の言葉と重なるようにして――大量のマグマの塊が宙を舞って襲い掛かってきたのだ。

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