第212話:ボルフェリオ火山⑪

 時折マグマのしぶきがリッコに当たろうとするのだが、しぶきは当たることなく軌道を曲げて魔法袋の中へ入っていく。

 その光景に驚きつつも、カナタたちは無事にリッコたちのもとへ辿り着いた。


「アイスワールド!」


 直後、マグマに神経をすり減らす必要がなくなったアルフォンスの魔法が前方に広がっていき、無限に湧き出ているのではないかと思われていた魔獣の群れを一瞬で凍りつかせた。


「リッコ! 大丈夫か!」

「問題なーし! っていうか、この魔法袋、わかっていたけどヤバいわね」


 後ろからリッコの姿を見つめているカナタでも不思議な光景だと思ってしまうのだから、魔法袋を手にしている彼女の考えは彼以上だろう。


「このままマグマを干上がらせてしまうんじゃないか?」

「容量無限ですからね、それも可能かとは思いますが……レッドホエールと魔族がそれを許してくれるかどうかですね」


 この状況を魔獣や魔族がただ眺めているとは思えない。

 故に、ライルグッドとアルフォンスは臨戦態勢を解くことはしない。

 リタは次の戦闘に備えて魔力を温存しており、ロタンは周囲に異常がないかを観察している。

 賢者の石は凍りついた魔獣を砕き始めている。この熱波の中で氷が溶けて、中の魔獣が再び襲い掛かってこないとも限らないからだ。

 それぞれが次に備えた行動をしている中――マグマに動きがあった。


「……ねぇ、カナタ君。奥の方、なんだか盛り上がってない?」

「奥の方って……な、なんだよ、あれは!?」


 今までボコボコと発泡していたマグマの表面だが、それが奥の方で大きく盛り上がり、波を打って迫ってきたのだ。


「まさか、レッドホエールか!」

「リッコ様! 魔法袋の吸収範囲はわかりますか!」

「わ、わからないわよ!」

「仕方ありませんね――アイスウォール!」


 アルフォンスは左右と後方に氷の壁を築き上げる。

 正面はリッコが魔法袋で吸収しているが、その効果範囲は未知数だ。ならばと周りからこちらへ流れて来ないようにしようと考えた。

 とはいえ、アイスウォールはすぐに砕かれてしまうだろう。その間に魔法袋の効果範囲を見極めて、そこへ避難するのが最善策となるだろう。

 そして波が、カナタたちのところへ到達した。


「くっ! …………あ、あれ?」


 熱波と衝撃に備えていたリッコだったが、それらが襲い掛かることは終ぞなかった。

 それは何故か――魔法袋が規格外の効果範囲を見せつけてマグマの波を丸々飲み込もうと奮闘していたからだ。


「……えっと、カナタ君?」

「えっ! お、俺かよ!?」

「それは当然だろう! これはカナタが作り出した魔法袋だからな!」

「私のアイスウォール、意味がなかったですね」

「そ、そんなことないっす、アルフォンス様! とっても涼しいっす!」

「ひ、ひんやりしていますねー! あは、あははー!」


 リタとロタンからフォローを受けたアルフォンスだが、本気で口にしたことではなかったので苦笑を浮かべるに止めた。

 だが、アイスウォールのおかげで熱波を緩和し、周囲の状況が良くなったことは間違いない。

 だからこそ気づけたのかもしれない。


『――……けて』

「……え?」


 何者かの声が聞こえたような気がして、カナタは思わず声を漏らした。


「どうしたのだ、カナタ?」

「ライル様、誰かの声がしませんでしたか?」

「……声だと? いや、何も聞こえていないし、そもそもこの場には俺たちしか――」

『……けてくれ』

「「「「「――!?」」」」」

「ど、どうしたの?」


 正面でマグマを受け止めているリッコにだけは聞こえていなかったが、背中越しにもカナタたちが何かを感じていることはすぐにわかった。

 しかし、問い掛けられたカナタたちも今の声がいったい何なのか理解できておらず、すぐに答えることができなかった。


『……助けてくれ』

「助けを、求めてる?」


 そう気づいた時から、カナタの視線はマグマの方へ向いていた。

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