第112話:エピローグ
魔力枯渇を起こしたカナタは翌日には目を覚ました。
しかし、今回は今までとは違い体調の回復に時間を要している。
はっきりとした原因は分かっていないものの、ヴィンセントの推測としてはミスリルと氷針石という、魔力を大量に消費する素材を使った事に原因があるのではないか、との事だった。
「すまん、カナタ。まさかこのような事態になるとは」
「謝らないでください、殿下。その気持ちは俺も同じですから」
謝罪を口にするライルグッドに対して、カナタは苦笑しながら気持ちは同じだと伝えた。
事実、カナタも魔力枯渇を起こしたとしてもすぐに良くなるだろうと考えていた。
それが蓋を開けてみれば上手く体が動かせず、足も震えている状態なのだから驚きだ。
「しばらくは静養して、しっかりと動けるようになってから王都へ出向かれた方がいいでしょうね」
「それでいいんですか、殿下?」
「構わん。そもそも、剣をお願いしたのはこちらなのだから当然の対応だ」
「でも、カナタ君を王都へ連れて行くのは王命なのよね?」
「……すでに、連絡は付けている」
「「……え?」」
驚きの声をあげたのは、カナタとリッコだった。
ヴィンセントは察していたのか、特に表情を変える事はない。
「い、いつの間に?」
「陛下が秘密裏に使者を派遣しているという話、覚えているか?」
「は、はい」
「その使者が俺に接触を図って来た」
「……いつの間にそんな事になってたのよ」
ライルグッドによると、カナタが倒れた昨晩遅く、彼が泊まる部屋の窓がノックされた。
部屋が二階だった事もあり警戒を強めたライルグッドだったが、王族にしか伝わっていない言霊を受け取った事で素直に窓を開けて使者を招き入れた。
「王族にしか伝わっていない言霊なんてものがあるんですか?」
「俺たちはいつでも命を狙われているからな。言霊以外にも色々とあるが、知りたいか?」
「結構です!」
そんなものを知ってしまうとこちらも命を狙われかねないと、カナタは全力で拒否を伝える。
「冗談に決まっているだろう。さて、話を戻すが、俺はそいつに護衛対象、つまりカナタの調子が良くない事を伝えた」
「でもそれって、アルフォンス様の剣を作ったからであって、言ってみれば上司である殿下の失態じゃないの?」
「リッコははっきりと言うんだな。だがまあ、間違いではない。しかし、使者は館の中で何が行われていたのかまでは知らなかった。だから俺が伝えた情報を陛下に届けたはずだ」
実際のところ、陛下の使者はカナタの状態をライルグッドから報告を受けて確かめている。
もちろん窓の外から探る程度だったが、リッコやメイドたちが世話を焼いているところを目撃して信じ切っていた。
「カナタの部屋にリッコやメイドたちがいてくれて助かった。もし誰もいなければ、その使者は中に侵入して直接カナタの状態を確認していただろうからな」
「それはそれで怖いんですが……」
誰にも気づかれずに館へ侵入できる実力の持ち主だという事であり、実際にそうなっていた事を考えるとカナタは両腕で体を抱きしめていた。
「うっそ、全然気づかなかったんだけど」
「リッコでも気づかないんだ」
「相手も凄腕だという事だな」
とはいえ、いまだにアルフォンスが目覚めていないのもあり、カナタはしばらく故郷でもある現フリックス準男爵領に留まる事になった。
「もう少し動けるようになったら、街の中を見て回ってもいいのではないですか?」
「うーん、そうしたい気持ちもあるんですが、街には兄たちがいますよね?」
「顔を合わせたくないですか?」
「正直なところ、そうですね」
最も辛く当たっていたヤールス、ラミア、ユセフはいないものの、だからと残る三人の兄たちを許せるかと言われれば、そうではない。
「俺だけが罪を逃れているわけですし、顔を合わせた途端に文句を言われるのも目に見えてますからね」
「でもそれって自業自得よね? 文句を言われても、言い返しちゃえばいいんじゃない?」
「そうなんだけど、できれば面倒は避けたいじゃないか」
カナタは笑っているつもりだったが、その笑顔はとても苦しそうで、その顔を見るとリッコたちはこれ以上何も言えなくなってしまった。
「分かりました。ですが、もし気分転換に街を見て回りたいなどがあれば仰ってください。こちらで護衛を準備することも可能ですから」
「ありがとうございます、ヴィンセント様」
「まあ、私がいれば護衛なんて必要ないけどね!」
「リッコも頼りにしてるよ」
「なんなら、俺が保護しているという証明を持たせてもいいぞ?」
「……いえ、それは遠慮しておきます」
「何故だ!?」
ライルグッドの申し出だけを断った事で彼は大声をあげた。
その様子を見ていたリッコとヴィンセントは声をあげて笑い、最終的にはカナタも笑う。
何がそんなにおかしいのかと三人にジト目を向けるライルグッドだったが、最終的にはそんな彼も苦笑を浮かべている。
――そして、この静養がちょっとした騒動につながるなど、この時は誰も分からないのだった。
第二章 完
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