竜楽園のA

しろ茶とら

プロローグ


 風が、乾いている。

 草木も花も、泉も失われた戦場跡で、俺は竜と相対していた。


 大地を軋ませ割る強靭な脚、大樹をも引き裂き切り裂く凶悪な爪と腕。全身くまなく闇色の鱗を纏っており、腹も弱点とは成り得ない。

 俺は愛槍を握り直す。その圧倒的な支配者たる王気が、俺の膝を折ろうと重圧をかけてくる。こんなところで負ける訳にはいかない、己のもう一つの武器である竜への憎しみを、槍と共に構え直す。

 ありったけの憎しみを込めて睨み上げる。竜は、闇よりも昏い黒の瞳で、俺を見下ろしている。

 その感情は、その瞳はなにを語っているのか。読もうとする心を、憎しみで押さえつけた。

 瞳よりも厄介なのは、その間、額に埋め込まれている深紅の宝石。あれが竜の魔力源であり、弱点であり、最も触れ難い場所。今も煌々と光り、目の前の人間を潰すための準備をしている。


 俺は、この闇竜を、殺す。全ての竜を殺さんと、あの人の元で槍を振るったのだから。


「来い、人間」


「行くぞ、竜」


 宣戦布告に応え……闇竜最愛の師へと攻め寄った。

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