第6話 暗雲
カットが始まって、十五分ぐらい経っただろうか。その間、私はずっと下を向いて、はらりはらりと私の髪の毛が落ちてゆく様ばかり見ていた。本当に髪の毛が生きているとするなら、残酷な光景だ。目を細くすれば風流に見えないこともないが。
いずれにせよ、十五分もこれとにらめっこしていたので、さすがに飽きてしまった。我慢ならなくなった私は、おそるおそる鏡の方に目をやった。
なんじゃこりゃあ。私は目を疑った。そこに映っていたのは、いわゆる「おぼっちゃまヘア」。前髪は一直線で、トップの辺りの髪は栗みたいになっている。カワイイ。
いやいやそういう問題じゃない。ちょっと待ってくれ。髪型はそのままでいくんじゃないのか。だよな。確かにそう言ってたよな。それともなんだ。今までそうは見えなかったが、ボケてるのか。
私は、この老人に何か文句を言ってやろうと思った。が、結局言わなかった。別に勇気が無いからではない。断じてそうではない。私の勘違いの可能性もあるからだ。もしかしたら、ヘアカットの過程で、たまたま今は「おぼっちゃまヘア」になっているだけかもしれないじゃないか。いや、きっとそうだ。そうに違いない。最終的にはいつもの髪型にしてくれるだろう。仮にそうじゃなかったとしても、文句はその時に言えばいいだろう。
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