第178話 エルガ先輩
俺とレイナが閉じ込められてから三日が経った。
体感的には六日間な訳だが、まあそこは現実世界基準でいいだろう。
その間、特段変わったことはない。
いつもと同じように朝が来て、太陽が昇り、そして夜が来る。
俺たちは元々家族みたいなものなんだから、それが名実ともにお互いの気持ちを伝え合ったからってこれかでと変わるはず――。
「あるに決まってるよ!」
毎朝レイナの顔を見る度に愛しさを感じすぎてまっすぐ目を見れなくなってるんだよ!
彼女は彼女で顔を赤くして視線を逸らしながら、髪の毛を弄ったりしているのだ。
そんな仕草一つ一つがまた可愛いと思い、ついスノウを抱っこして照れ隠ししてしまう毎日。
「はっきり言って、お前ら端から見たらヤバいぞ」
「……エルガ先輩。俺、どうしたらいいですかね?」
「なんだよ先輩って。あとその口調は止めろよ気持ち悪い」
エルガは呆れたようにそう言うが、俺にとっては結構重要なのだ。
「で、わざわざアークと二人で家に来て、なんの用だ?」
あぐらをかき、俺たちの話を聞いてくれる体勢になる。
今日はわざわざリビアさんにも外して貰い、ルナと一緒に俺の家の方に行って貰っている。そのためここには男三人しかいない。
俺とアークはお互いに見合い、そして口を開いた。
「かつて俺と同じくヴィーさんの策略にまんまと乗ってしまい、ヤリタクナルダケを大量に食べさせられ、気付いたらすべてが終わっていた武勇伝を持つ先輩にアドバイスを貰おうと思って来ました」
「僕たちにはもうエルガさんしかいないんです!」
「お前らっ飛ばされてぇのか⁉」
そんなに怒らなくても……。
「だって俺、その……あの環境がヴィーさんに用意されたってわかっていたのにプロポーズして、しかもそのまま……」
もちろん結果は最良だと思っている。俺の気持ちに嘘はない。
だけどやっぱり男ならプロポーズはもっとロマンチックにしたかった。
それをあんな性欲に負けるなんて……。
「俺に比べりゃ全然いいだろ。俺なんて、自分の口で言うどころか、意識すらまともなくて……」
「僕なんて最初から三人で……しかも押し倒される形で……」
三人で影を落としながら一時的に凹み、最初に回復したのはやはりすでに結婚も終えているエルガだ。
「とりあえず、あのババアが用意した部屋だ。どうせ変な雰囲気になるように仕込んだんだろ」
「あとでエディンバラさんに聞いたら、性欲を高める魔法や魔道具を全力で使ってたって……」
「しかもご丁寧に、男には感じられないタイプを使ってたみたいです……」
「本当にしょうがねぇなあいつ! だがまあ……いい加減吹っ切れよ。男のお前らが立ち直らねぇと、女どもが可哀想だろうが」
たしかに、俺がこんなんじゃレイナに申し訳ないもんな。
アークも同じことを思ったのか、顔を上げたときにはもう最初の弱々しさは無くなっていた。
「ところで、エルガさんはどうやって振っ切ったんですか?」
「あ、俺も聞きたい」
「……」
俺たちが助言を貰おうとエルガに尋ねると、無言で顔を逸らして気まずそうにする。
どうしたんだろう? と思っていると扉が勢いよく開いた。
「私が教えてやろう!」
「あ、スザクさん」
「ババア⁉ なにしに来やがった余計なこと言わずに帰れ!」
「こいつは男としてケジメをつけると言ってな! 神獣族を全員広場に集めて、その場で改めて愛を語ったんだよ!」
おお、それはなんか男らしくて格好良いな。
アークも感心というか、尊敬の眼差しでエルガを見ているし、俺もそう思う。
「んでこの話には続きがあってな!」
「テメェェェェ! その口閉じろぉぉぉ!」
慌てた様子でスザクさんに飛びかかるが、それを受け流して見事に関節を極めた彼女は早く楽しそうに口を開き――。
「こいつ男として理性を持ったまま愛しきってやるって言って、三日三晩ずっとリビアのこと抱きまくってたんだぜ! その時点で理性飛んでんじゃねぇか! なぁ性獣!」
「言うなぁぁぁ!」
「「……」」
男としてそれは、いいのだろうか?
スザクさんに身動きを封じられたエルガを見ながら、俺たちはなんとも言えない気持ちになってしまった。
神獣族の里から帰り道。
「最後の抱きまくったはともかく、俺たちがいつも通りにならないとってのは間違いないよね」
「はい。僕もセレスとエリーには、いつも通り接するように出来るよう頑張ってみます」
そうして拳をぶつけ合ってお互いの健闘を祈りつつ、家に戻る。
まだ夕方にもなっていないからか、スノウはルナたちと遊びに行ったまま帰ってこない。
となるとあとはレイナが居るかどうかなのだが、どうやら留守のようだ。
ソファに座ると、丁度太陽が窓から差し込んできて気持ちが良い。
最近、レイナのことを意識しすぎてあまり眠れていなかったこともあり、一気に眠気が来た。
「……」
夢を夢だとわかるときがある。
この夢の中の俺は日本のオフィスで普通のサラリーマンをしていて、終電ギリギリまで仕事をしていた。
そして疲れ切った身体で家に帰り、持って帰ったパソコンを開いて仕事の続きをする。
ベッドで仮眠を取り、再び出社。
怒声が飛び交う職場で俺は自分の仕事を終わらせるためにデスクに座り、そしてまた背後から声をかけられ、仕事が増えた。
本当に嫌な夢だ。
だけどこれもまた、藤堂新という人間の現実だった。
このときの俺は孤独だったけど、今は……。
目を開くと、太陽が少し赤くなっていた。
視線を感じてそちらを見ると、太陽より紅い髪が目に入る。
「……レイナ?」
「おはよ」
「うん……おはよ」
寝ぼけ眼をこすり、大きく欠伸をする。どうやら数時間くらい寝入ってしまったらしい。
うつらうつらとした意識の中、不意に頭を撫でられた。
「どうしたの?」
「ううん。なんとなくこうしたかっただけ」
そういえば最近、お互いちょっと意識しすぎて避けてた感じもあったもんな。
スノウもちょっと寂しいって言ってたし、そろそろ本当に今の状況になれないと……。
「っ――」
抱き寄せ、そのままキスをしてみる。
あの日以来とはいえ、ちゃんとしたキスは二度目だけど、やっぱりまだ緊張するな。
唇を離すと、レイナは恥ずかしそうにしながら見上げてくる。
もっと、ということに思えた俺がそれから数度キスを繰り返した。
「……実は今日、スノウが師匠のところに泊まって遊ぶんだって言っててね。丁度さっき預けてきたところなの」
「そうなんだ」
「だから……きゃっ」
俺はレイナを抱きかかえると、そのまま奥の部屋に行く。
さっきエルガの話ではないが、男ならこうしたときしっかり自分で動かないと駄目だと思ったから。
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