第15話 伝えるべき者とそうでない者
「で、何でデイビッドの奴は来ねぇんだよ!」
俺が声を上げると、ノーラスはびっくとするがエリスは何も言わずただ腕を組んで壁にもたれ掛かっていた。
デイビッドの奴、今日も昨日と同じ場所に集合って知ってるよな? まさか、分かった上で来てないとかじゃないよな?
俺が難しい顔して、そんな事を考えているとエリスが話し掛けて来た。
「ハルト先生、あんなチーム意識のない奴は放って置いて話を始めて下さい」
「と言うか、午前中の合同授業一緒じゃなかったのかよ?」
「デイビッドは、途中で授業抜けてって……」
「俺にはあんな授業必要ないんだって」
おいおい、マジかよデイビッド……
俺は呆れた様にため息をついた。
さすがに、そこまでするような奴じゃないと思っていたが、問題児恐るべし。
俺は少しデイビッドの行動に引いていると、ノーラスが口を開いた。
「あの~デイビッドがいないと今日は話が進まないんですか?」
「いや、そう言う訳じゃないけど、チームが2日目にして揃わないまま進めるのもな」
「ハルト先生は、もう初日でデイビッドの性格を理解して、その辺は対応してくるもんだと思ってましたよ」
エリスは俺に向かって、少し棘がある言葉を言って来た。
何か言い方キツくない? 俺の気のせい? まあ、エリスの言う通り問題児なのは知ってたけど、そんな事まですると思わなくない? いや、知っていたとしてもどうしようもないでしょ。
止めたとしても、あの自己中心的な性格だと言う事なんて聞かないだろうし、行動を縛ろうとしても反発して逆効果になりそうだよな。
俺は軽く頭をかきながら、小さくため息をついた。
「まぁ、デイビッドには探して俺から伝えておくから、あいつはいいか」
「え、ほっといていいんですか?」
「うん。いいよいいよ。どうせ連れ戻しに行った所で、言う事なんて聞かないだろうし。ほっとけほっとけ」
「(えー……この人、本当に先生? 担当教員って担当生徒が独断行動とかするの嫌がったり、キャリアや悪い噂が出ない様に探したり、叱ったりするんじゃないの?)」
ノーラスは想像していた担当教員の姿と違う態度を不思議に思っていた。
「それじゃ本題だが、担当教員は担当する生徒の実力を見る為に訓練場で今の力を見るんだが、知っているか?」
「はい。今日の合同授業の中でも他の人達が話しているのを聞きました」
「知っていますよ。これから二人三脚でチームとして教えて貰ったりするので、今の力を知ってもらうのは当然ですよね」
「なら話は早いな。うちも、お前達の実力を見せてもらう予定だ」
「(やっぱりやるんだ。あ~緊張するな……誰かに見られて何かするの苦手なんだよね)」
「(実力を見るね……どうせ、訓練場の機材を使って数値とか見て判断するだけでしょうね)」
ノーラスとエリスは互いに、違うことを考えていたが次の俺から出た発言に、耳を疑った。
「と言う訳で明後日、ドラバルド先生担当の3年生と模擬戦を行う」
「……へぇ?」
「……え? 今、何て言いました?」
2人は一瞬聞き間違えかと思い、動きが止まっていたがすぐにエリスが訊き返して来た。
「だから、明後日この学院の現頂点に立つ生徒達と模擬戦をするって言ったんだ。そんな訓練場の機材で出した数値なんて見て、本当の実力なんか分かんないだろ?」
「いや、いやいやいやいや、実力を見るのに模擬戦なんて聞いた事ないですよ! と言うか、ドラバルド先生ってこの学院じゃ有名な先生で、その先生が教えた生徒は物凄く優秀って聞いてますけど」
「おっ! よく知ってるなノーラス。その通り、俺がドラバルド先生にお願いして、お前達の模擬戦相手をしてもらう事になった」
「……ハルト先生、これは嫌がらせですか?」
「嫌がらせ? 何がだよエリス?」
するとエリスは俺の方へと近付いて来た。
「わざわざ実力見るのに模擬戦は、百歩譲っていいです」
「(いや、僕は全然良くないんだけど)」
「ですが、何故相手が3年生で、しかもこの学院の最優秀生徒達なんですか? 私達を笑い者にしようとしている様にしか思えません」
そんなエリスの言葉に、俺は鼻で笑った。
「何だエリス、お前始めから負ける前提で考えてるのか? 所詮、2年先に生まれて、学んで、経験した相手に怖気づいてるのかよ。学院を卒業したら、もっと上の奴らがごろごろといるのに、何を今から弱気になってんだ?」
「っ……」
「『紅の魔女』だか何だか知らないけど、そんな風に呼ばれて浮かれてるんじゃないのか?」
「っ!? ……先生に……先生に何が分かるんですか!」
エリスの突然荒げた声に、俺もノーラスも驚いてしまう。
その後、エリスは声を荒げた事を反省した様に謝罪して、俺から離れて行った。
……少し言葉が過ぎたか? だけど、今の反応は何か感じが違うと言うか、あそこまで怒鳴ると思わなかったな……
エリスの態度に少し引っかかる所があったが、とりあえず今は話を進める事にした。
「とりあえず、明後日の模擬戦に向けて各自調整をしておくように。明日は集合はしなくて、やりたいように過ごしていいぞ。それで明後日の模擬戦は12時開始だから、10時にここに集合する事。連絡事項は以上、解散」
そう告げると、エリスは黙ったままその場を去って行った。
その後ろ姿はどこか助けを求めている様にも見えたが、昨日師弟関係解消を言われた事もあって、話し掛けるのを躊躇してしまい黙ったまま見る事しか出来なかった。
するとそこにノーラスが近付いて来た。
「あ、あのハルト先生」
「何だ、ノーラス?」
「相談何ですけど、明後日の模擬戦辞退してもいいですか?」
「えっ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ~何とか渋々だけど、ノーラスが出てくれる気になってくれて良かった……」
俺はあの後ノーラスが模擬戦に出ないと言い出したので、とりあえず理由を訊いた。
ノーラスが思っていた事は、新入生の反応として最もで萎縮しきっており、出場すること自体が恐怖になりかけていた。
性格的な面もあるが、最終的にはそれがトラウマになり今後の学院生活において、悪影響になる様な物だと俺はすぐに理解した。
ノーラスに関しては一応は想定していた事だったので、対処方法は前もって用意していた。
その対処方法とは、何も隠さず今回の模擬戦を組んだ理由を全て話すという事である。
基本的に、そう言う意図は伝えるべきではないと思われるが、そう言うのは人によると俺は考えている。
例えばこれをデイビッドに言っても意味はないし、エリスに伝えたとしても変に力が入ったりする様な気もするので、ありのままの自分を出す為には伝えない方がいい。
だが、ノーラスの様に完全に萎縮してしまっている様な奴は、自分の力を完全に発揮できない。
そうなると、俺が意図した結果とはならないし、その生徒にも嫌なイメージを植え付けるだけになって、最悪な展開になってしまう。
だからこそ俺は、今回の意図や何をしようとしているのかをノーラスにだけ全てを話した。
結果的には良かったが、あまり納得してない様子だったが、全く理解してないって訳でもなかった感じだな。
まぁ、俺がノーラスの方が折れてくれたって感じかな。
「さてと、後はデイビッドだけなんだが……どこにいるんだ、あいつは?」
と、俺は学院内を適当に歩きながらデイビッドを探していると、模擬戦場の方から騒がしい声が聞こえて来た。
俺はもしかしたらと思い、すぐに模擬戦場へと向かった。
模擬戦場に着くと、そこではデイビッドともう1人の生徒が中央で模擬戦を行っており、周囲には見物の生徒達が集まっていた。
おいおい、またか? 他に先生も見当たらないし、生徒同士の勝手な模擬戦は認められてないだろ。
それに相手が3年生って、何してるんだよデイビッド。
俺は急いでその2人の間に入り込む為に走った。
「はぁー、はぁー、くそっ!」
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだよ? 俺に勝つんだろ? 新入生!」
「俺はお前なんかに負けるわけねぇだろう!」
デイビッドは右手に炎魔法を纏って、相手に向かって突撃しにいくと、相手の3年生は不敵な笑みを浮かべて右手を前に突き出した。
「(これは正当防衛だから、少し威力の高い中級魔法を使っても問題ないよな。こう言う奴は、少し痛い目見た方がいいんだよ!)」
3年生は、デイビッドの顔目掛けて中級風魔法を放とうとしていた。
俺はそれを遠くから魔力から察知出来たので、周りの生徒達を飛び越えて2人の間に飛び降りた。
そのまま互いの手首を掴んで、相殺する魔力を流して2人の魔法を停止させた。
「はい、そこまで!」
「「っ!?」」
2人や周囲の生徒達は、突然俺が現れた事に驚いていた。
「(コイツ、どっから!?)」
「(教員か? 何で……と言うより、魔法が途中で消えた?)」
「お前達、何してたんだ?」
俺は2人の手首を掴んだまま、交互に顔を見て訊ねると3年生が口を開いた。
「何って、この新入生に喧嘩を売られたんですよ。こっちは被害者ですよ」
「ほぉ~そう言う割には中級魔法を使おうとしている様に見えたけど?」
「っ……見間違えじゃないですか? てか、俺じゃなくてそっちの新入生はどうなんですか? 魔法を使って俺に攻撃して来たんですよ?」
俺はデイビッドの方を向いて訊ねた。
「本当か? デイビッド」
だがデイビッドは、俺の問いかけには答えず黙ったままそっぽを向いた。
はぁ~ったく、手のかかる奴だ。
そこで俺は掴んでいた2人の手首を離した。
「とりあえず解散、解散。デイビッド、お前には少し話があるから俺と来てもらうぞ」
「ちっ」
おい、舌打ちかよ。
デイビッドはそのまま俺に背を向けた。
「逃げるなよ」
「……逃げねぇよ」
「それと3年生君。今回は見逃してあげるけど、勝手に魔法を使った喧嘩しない様に」
「……はい。分かりました」
3年生は少し不満そうな顔で返事をして来たが、それ以上の事は俺は言わずにデイビッドを連れてその場を離れた。
「ちっ! 何なんだよ、あの教員は」
「彼はハルト先生だね」
するとそこに1人の3年生がやって来て話し掛けた。
「ハルト……あ~何か変な噂のある教員か。てかマルス、見てたのか」
「あぁ、たまたまね。ガウズ、少しは3年として責任ある行動をした方がいい」
「はいはい。すいませんでした~」
ガウズは反省のしてなそうな態度で、マルスに謝る。
「にしてもよ、何で魔法が途中で消えたんだ? 短縮で魔法を発動しようとしたからか?」
「……そうかもね。短縮での魔法発動は1つでも手順を間違えると、発動しないからね」
「そっか~失敗したな~」
そう言ってガウズは、両手を頭の後ろに回してその場を去って行った。
だがマルスは、その場に暫く立ち止まり俺とデイビッドの後ろ姿を見ていた。
「(さっきのは間違いなくガウズの魔法は発動していた。それに、あの新入生の魔法は発動していたのに、それもガウズと同様に消えていた。考えられるのは、あのハルト先生が何かしたとしか思えないが……)」
「お~いマルス、何してんだ?」
マルスはガウズに呼ばれて振り返り、その場を後にした。
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