第2話 あっちゃん
「いってきまーす。」
「途中まで一緒にいきましょうか?大学まで電車一緒だし。」
佑介の姉、大学1年生の東川あずさは佑介の事を心配していた。あんなに明るかった弟が高校入学以来、落ち込んですっかり暗くなってしまったからである。先週は真っ青な顔で帰って
きて、そのまま部屋から出てこず、様子を見に行ったら高熱がでてうなされていた。入学そうそういじめにあってるのではないかと心配でたまらないのであった。
「佑介。ひょっとしていじめられてるの?あなたらしくないわよ?」
「ね 姉ちゃん。い い いじめられてないよ。」
と噛み噛みで答える佑介を見たあずさはいじめられていると確信した。
「なにかしたの?あなたの変態性癖でもばれたの?」
「なにを言ってるの姉ちゃん?僕は普通ですよ。そんな性癖ありませんから!」
「はあ?あなたのエロ本、幼馴染ものばかりじゃない?普通にキモイからね?」
「な、姉ちゃんなんで僕のエロ本知ってるの?」
「あなたの部屋を漁っ・・・掃除したときにたくさん出てきたわよ?」
「今、漁ったって言ったよね?本当にやめてください。」
「パソコンはもっとマニアックだったわ~お姉ちゃん顔真っ赤になっちゃった。」
「ぐふっ。おま、男子高校生のパソコン見るとか鬼だろう?」
佑介はパソコンに厳重なロックをかけようと心で決心しながら少しだけ心が軽くなったのが分かった。
佑介はあずさと駅で別れ、その重い足を動かし高校まで通学したのであった。
佑介はそのような感じの毎日が過ぎ往復ビンタを受けてから1週間が経ったのであった。
その日も同じように通学していた途中、姫野と会ってしまい相変わらずの視線を感じながら歩いたのであった。なぜかその日にかぎって姫野は佑介の後を追いかけるかのようにずっとついてきた。佑介は不審に思いつつ下駄箱で靴を履き替えクラスまでやってきて自分の席に座った。
「あの・・・姫野さん。僕になにか用事でもあるのかな?」
「フン」
「その・・・目の前で立たれると・・・。」
姫野はクラスに着くと自分の席にはつかず佑介の前で腕を組み仁王立ちしていたのである。佑介は二重の意味で困惑していた。というのも姫野の学校指定カバンに小学三年生で別れた幼馴染に送った世界に2個しかないはずの手作りのハート型のキーホルダーがぶらさがっていたからである。佑介は悩んだ。このキーホルダーのことを聞きたい。しかし姫野さんにはすっかり苦手意識があり、なにしろ怖い。しかもなぜ、彼女がこのキーホルダー持っているのか気になる。もしかして幼馴染はこのキーホルダーを姫野へプレゼントしたのか?僕にとって意味のあるこのキーホルダーを。そんなことを考えていると姫野は汚物を見る視線を残し自分の席に戻ろうとした。
「姫野さん。ごめん。僕を嫌っているのは分かってるんだけど・・・そのキーホルダーのことだけ教えてほしんだけど・・・。」
「な、なによ?」
明らかに動揺した様子をみせた姫野に佑介は恐る恐る聞いた。
「そのキーホルダーは僕が手作りして大切な人に贈ったものなんだ・・・僕にとって本当に大切なキーホルダーなんだ・・・」
その瞬間、佑介の視界は真っ暗になった。なぜか顔全体がなにか柔らかいもので覆われていた。そして、甘く、優しい、いい匂いがした。
「ううっ。ううっ。」
佑介の顔の上から泣き声が聞こえた。佑介はその泣き声を聞いた時。妙に懐かしくなった。
「え?え?・・・・あっちゃん?」
「ゆうくんのバカ!やっと気づいた!遅すぎ!ゆうくんの鈍感!この浮気者!うわーん。」
姫野は抱きついた体を少し離すと佑介の頭をぽかぽか叩きながらそう言い終わるとさらに体を佑介にくっつけ抱き着き泣き始めたのであった。
「へ?」
それはクラスメイトから発せられた間の抜けた一言であった。それはそうである超絶美少女の氷の女神が入学式から嫌っているはずの男に甘い言葉づかいで密着して抱きつき泣いているのである。中学から一緒だったクラスメイトも初めて見る氷の女神であった。
「え?姫野さん、なんか、やばくない?」
「もしかして東川くん、ついに姫野さんに酷いことしちゃった?」
「姫野さん、もしかして、脅されているのでは?」
クラスメイトはそのような酷い内容を口々にいいながら大騒ぎになったのである。
「えーと。あっちゃん。あっちゃんで間違いないよね?」
「ぐすっ。そうだよ。ゆうくん。本当に久しぶり。ずーと、ずーと会えるのを待ってたんだから。」
そう言うと明日香は佑介の膝の上に座り佑介の胸に顔を埋めながら抱きついてきたのであった。佑介はこの時にふと冷静になり自分の置かれている状況を考え全身から冷や汗がでてきた。
「えと、あっちゃん。僕もいろいろお話したいけど、みんなの視線も気になるし、授業も始まるし、いったん落ち着こうよ。」
「うん。ゆうくん。分かった~。休み時間はずーとあっちゃんとお話してね。浮気は許さないから。」
と明日香は本当に離れるのが嫌そうに自分の席に戻っていった。
「氷の女神が男に甘えている・・・あんな甘ったるい声で!」
「あんな素直な姫野さんみたことがない!。」
結局午前の授業の休み時間はクラスメイトに囲まれてしまい碌に話はできなかったが、明日香は休み時間になると佑介の膝の上に座りにこにこしながら佑介に体を預けていたのであった。
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