おかえり
水妃
第1話 留学
——生きていると、やはり予測できないことの連続だ——
僕は、つまらない毎日を過ごしていました。
大学を卒業後、とある企業に入社した僕は
特に大きな問題も無く毎日きちんと仕事をこなし、
それなりに良い収入も得ていたが、どこか満たされない自分がいた。
毎日に何かに不満があった訳では無い。
でも、何か満たされないというぼんやりとした気持ちがそこにはあった。
真面目に仕事をこなしているということが認められ、
ネットカフェの店長を任された時、僕に出来るかな?
と不安に思ったことあったけど、
僕は、一つチャンスと思って引き受けた。
自分が出来る創意工夫を全力で行い、
アルバイトのスタッフともそれなりに頑張ることが出来たと思う。
でも、ここでも満たされていると感じたことは無かった。
何故か、どこか無機質だった。
それから三年が経過したある日、
本社に異動になっていた僕は部長に呼び出され、ある提案をされた。
話の内容は、将来海外部門を任せたいから半年程、
社の経費で海外留学して欲しいとのことだった。
昔から、世界に興味があった僕は二つ返事で引き受けた。
無機質な毎日を少しでも変えられたらとも思った。
仕事の引継ぎを同僚に行うと直ぐに英語の勉強に取り掛かった。
向こうの大学のビジネスコースは英語で実施される為だ。
小さな頃から英会話に通った経験と大学時代の短期留学の経験もあった為、
英語の勘を思い出すのに時間は掛からなかった。
一カ月の準備期間の後、僕は出発した。この留学が自分の人生を大きく変えることになるとも知らずに。
到着した僕はホームステイ先のマザーが空港まで迎えにきてくれていた。
車から見る景色は森林が多く、大きな川も見えた。
窓を開けると空気はとても新鮮で、草や土の香りがした。
少し遠回りをしてくれて明日から通う予定の大学付近も見せてくれた。
「とても、大きい……」僕はそう呟いた。
「この大学はこの地域で一番の大学よ。
自然に囲まれて、空気も綺麗。とても有意義なキャンパスライフになるはずよ」
とても優しい笑顔で僕を見ながらマザーは言った。
ホームステイ先に到着すると、自分の部屋や洗濯機、
シャワーの場所など教えられた。
シャワーに関しては湯の量に限りがある為、
なるべく五分くらいで浴びて欲しいとのことだった。
僕はシャワーが長いタイプなのだが、
日本とはまた違うことが新鮮で何だか嬉しかった。
時差ボケのせいか、その夜、僕はあまり眠れなかった。
翌朝、眠たい目をこすりながら起きた僕は、少しは朝食が必要と考え、
シリアルを食べた後、家を出た。
大学まではホームステイ先付近のバス停から通うことになっていた。
バスの運転手は乗客に「おはよう」と、とても大きな声で挨拶をしてくれる。
帽子とグラサン、高い鼻。日本人とはまた違うカッコよさがあった。
車内ではラジオが流れており、全て英語だ。
とても速く所々聞き取れない箇所もある。
大学に到着すると大きな門をくぐり、クラスへ向かった。
エントランスには沢山の生徒がいてとても賑わっていた。
時間は五分遅れでオリエンテーションがスタートした。
様々な国から留学生が来ていた為、
僕たちは互いの国のことや趣味などを会話した。
ランチ時間になり、
同じディスカッショングループになった女性が僕に話しかけてきた。
「ノボル! ここ座っていい?」
「うん、もちろん、いいよ」
彼女の名前はシャン。
髪型はボブカットで茶髪だ。
細身で身長は百七十センチくらいだろうか。
ディスカッションで話していたが、
彼女の国では水もそのままでは飲めず、
インターネット技術などの通信技術も遅れているとの事だった。
そこで彼女は自国のこの現状を変えていく為に、
留学し学んでいると話してくれた。
彼女は僕とは違い、この短期のビジネスコースだけ受けている訳ではなく、
自国の大学からこの大学に長期で留学している大学生だ。
しかし、自分の国の現状がある為、
社会人コースにも混ざれるように校長に交渉したようだった。
これには僕も驚きだった。
何故なら日本にいた時にこのように校長に交渉して
物事を進めていく生徒なんて一人もいなかったからだ。
僕は彼女の中に自ら人生を切り開いていく力強さを感じた。
「ねぇ、ノボル、あなた日本から来たのよね?」
シャンは身体を乗り出して質問してきた。
「うん、そうだよ」
「日本で仕事をしているって言っていたけれど、どのような仕事をしているの?」
「僕はインターネット関連の仕事をしているよ。
人々が離れていても繋がっていられるようにね」
この時期の日本にはまだ現代のようなスマホが無く、
ガラケーの時代で日本でもADSLから光通信が少し出てきたくらいの時期だった。
「日本は私の国よりも全然進んでいるわ……
私の国ではネットが繋がらないことが多くて
メールも届かないことのほうが多いのよ……。
この現状を変えていかないと私の国は世界から取り残されてしまう」
「君のような意識が高くて優秀な若い世代がいれば、
君の国は数年後には世界トップレベルの通信技術を獲得しているかも知れないよ」
「そうだと良いんだけど……」
僕は日本でここまで自国について
真剣に考えている若者に会ったことが無かった為、
このことには心から驚いた。
シャンと別れると僕は図書館に向かいさっそく授業の準備に取り掛かった。
本格的な授業は明日からだ。
図書館はとても大きく、
必要な文献が全て揃っていた。
沢山の大学生が読書や勉強をしている。
僕もさっそくテキストと文献を準備して勉強を始めた。
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