高校生エージェントは苦労性

ものろーぐ

第1話 前日譚

「やっと終わった…」

レポートの完成を確認し送信。『送信しました。』の文字を見て俺は一息つく。時刻は23時を過ぎた頃。普段から夜更かしする身としてはいつもの事だがパソコンと長時間向き合うのはやはり疲れるのだ。アイツならこんな作業も簡単にこなすのだろうと思いつつ、凝り固まった肩をほぐしているとスマホの着信がなった。表示には『泉龍也』の文字。毎回実は狙ってやってるんじゃないだろうか?そんな疑問が脳内によぎりながらも通話ボタンを押す。

「別に狙ってないからね?」

「今のでだいぶ怪しいんだが…」

初っ端からこれである。タイミングといい考えている事を一発で当てて来るところといいコイツはサトリなのだろか?

「で、なんの用だよ?」

「酷いなぁ…せっかく頑張っているアラトを労おうと思ったのに…」

これ見よがしなため息と残念そうな口調。通話越しでもきっと様になっているんだろうなぁ…と思うと出てくるのは自然と悪態になる。イケメン死すべし。

「労うつもりがあるなら明日ミルクコーヒー奢れよ」

「毎度の事だけどそのうち糖尿病になるよ?」

「良いんだよ。糖分は世界を救うんだ」

それに人生が苦いんだからコーヒーぐらい甘くていいって言う名言もある。

「まぁ、それは置いといて」

「置いとくなよ」

「もうレポート送ったんだろ?とりあえず【依頼】の最初の一年は終わったわけだ」

コイツ無視しやがった。

「まぁ、そうだが…」

「で、【彼】はどう?」

「どうも何もこの一年はほとんど何もなかったのはお前も知ってるだろ?」

実際この一年は本当に何も起きていない。【依頼】の前に随分と脅されたのが拍子抜けするくらいには。

「それは知ってるけどね。それに、君は一年間同じクラスメイトだったんだろう?僕はクラス違うし基本的に関わらないからさ。」

そんな事を龍也は言う。なんだかんだコイツにも助けられているので無視するわけにもいかない。めんどくさいが仕方ない。

「普通だったな。本当どこにでもいる普通の人間で普通の生活を送ってた。」

『佐藤信二』17歳A型。平均的な身長に同世代より少し童顔。両親が仕事で家を空けがちな為ほとんど一人暮らしの状態。成績は上位で人当たりもいい。

一言で言うならば『いい奴』といったところだろう。

だからこそ【普通】だ。今は亡き王国の王族だとか、実は暗殺者だったとか、流行りの転生者といったような特殊な設定は無い。まぁ、当たり前なんだけれど。

「普通ねぇ…。本当に普通の人間に【僕達】が監視につくかな?」

「んな事言われても知るかよ。実際怪しい動きは無かったし、俺とお前で見逃したんだとしたらもうそれは化け物だろ。」

やはり疲れていたんだろう。余計な事を言ってしまった。

「おっ、珍しいね君が褒めるなんて。」

「客観的事実を言っただけだ。別に褒めてない。」

「はいはいツンデレツンデレ。」

「誰がツンデレだ誰が。」

コイツは事あるごとににからかってくるのだ。なんだかんだ長い付き合いなので声の調子で良くわかる。

「でも気をつけなよ。【予言】だと何か起こるとしたら今年なんだからさ。」

「…わかってる。」

さっきまでと違い真面目な声。その変化に一瞬答えるのが遅れた。

「ところで今は何時でしょうか?」

「?今は2時になるとこ…あっ!?」

「それじゃあお休み〜♪今年もよろしくね〜」

「ちょっ、おまっ!?」

プープープー。

既に通話は切られていた。

「アイツめ…」

やっぱりアイツは苦手だ。掴みどころがなさすぎる。

「寝るか…」

今からだと対して寝る時間はないだろうが。

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高校生エージェントは苦労性 ものろーぐ @takeamaka

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