第10話 長いトンネルの出口が見えるころ

 真央に相談してから再び1週間が過ぎようとしていた。

 あれからも日生からの連絡は無く、いたずらに時間ばかり過ぎていった。

 何時まで経っても来ない朗報に、俺は痺れを切らして、怒りを覚えかけていた。


 今日は日曜日……


 今日、日生から連絡が来なかったら、明日は絶対に問い詰めてやろうと考えていた。

 日曜日なのに何もする気が起きなくて、だらだら過ごしていると、あっという間に夜が来ていた。そして、スマートフォンの着信音が部屋に響く。


「日生からだ!」


 俺は何も考えずにスマートフォンを操作する。

 しかし……


「くそっ! 迷惑メールかっ!」

「くっそったれ!!」


 苛立ちの頂点を迎えた俺は、思わずスマートフォンをベッドに投げ捨ててしまう。

 スマートフォンはベッドの上で『ポフン』と跳ねて、ベッドの端の方に転がって行った。

 普段ならそんな事は絶対しないが、俺の心に其処までの余裕がなかった。


(真央に連絡でも取ってみるか……)


 放り投げたスマートフォンを回収して、SNSで真央に連絡を取る。しかし、SNSで真央に連絡は取って見たものの、真央からの返信は来ない……


(何か用事でも有るのか?)


 しばらく他事をして待ってみるが、一向に真央からの返信が来ない。


「真央も俺を裏切るのか!?」


 もう、此処まで来ると、自分が何を言っているのか、分らなく成っていた。


「もう、いいや。あんな女!!」


 俺は思わず、そう呟いてしまう。

 恋愛がこんなに難しいとは、夢にも思っていなかった。


 好き。嫌い……

 それだけでカップルに成ったり、別れたりすると思っていた。


「何で俺と日生は両思いなのに、カップルに成れないのか!」

「何で、何でなのか!!」


 1人で空しく叫ぶが、何も解決には成らない。

 叫んでから気持ちが少し落ち着くと、頭が急にボーッとしてくる。何だか眠たくなってきた……


 さっきの言葉で気が抜けてしまったか、これ以上考えるのも面倒だ。今は眠りに着こう。そうした方が良いと体が訴えかける。

 俺はベッドにゆっくりと向かって行った。


 ……

 …

 ・


『チュン、チュン、―――』


 スズメのさえずりが聞こえる。少し寝るつもりが完全寝てしまったようだ。

 部屋の壁時計を見ると午前6時半。後もう少し寝られそうだ……


(そういえば、真央からあの後来たかな…)


 寝ぼけ眼の目を擦りながら、スマートフォンを操作する。


(真央からは連絡来ているな…)


(これは誰だろう…?)

(知らない人のIDからSNSが来ている……)


 俺はまず、真央からの返信を見る。


『良輔! ごめん!!』

『スマホのバッテリーが切れていた (^_^;』

『日生の事は今日の放課後でも相談しよう!!』


 真央からの返信を読んで、知らない人から来たSNSの内容を見る。

 すると……、ついに待望の人からのSNSだった!


『こんばんわ(笑)』

『もう、寝ちゃった?』

『おまたせ! 彼氏(元)と別れたよ (*^_^*)』


『今まで使っていたSNSのIDは、元彼が知っているから変えた!』

『今、このID知っているの良輔だけ!(笑)』

『好きだよ!!』


 日生のSNSを読んでいると、急に目の前がぼやけてくる。


「また、泣いてる俺……。朝っぱらから…」


 心の底から待ち望んで、やっと来た彼女からのSNS。

 本当は、大はしゃぎするべきなのになぜか出来ない。それは、自分が一番知っている。


(長すぎたんだよ…)


 SNSの画面に表示されている、日生からの送信時刻を見ると、午前1時25分に送られている。その時間まで別れ話が続いていたのだろうか!? 


 でも、そんな事はどうでも良い! 

 これでやっとカップルに成れるのだから……


 涙で汚れた顔を洗い、目の充血を誤魔化すために目薬を差す。身支度をして玄関を出ると、雲1つ無い空が広がっていた。


「新しい世界の始まりだ!」


 馬鹿げた台詞を吐きながら、俺は学校に向かった。

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