どなたかわたしのことを褒めていただけませんか?

青蒔

おなかがいたいです

 寝るまえに、スマホで『部活 部長 決め方』と検索した夜を思い出した。


 その週、二年生は修学旅行に行っていました。わたしたち、当時の一年生は前々から二年生が修学旅行に行っている間に部長を決めておくように言われていました。わたしたちがいつどこに集まるのかがなにも決まらないうちに、二年生は旅立ちました。

 その週の金曜日は開校記念日でした。つまり、わたしたちは月曜日から木曜日のどこかのタイミングで動く必要があります。

 月曜日、わたしは様子見をしました。だれかがみんなを呼びかけないか、そんなラインを待っていました。なにも、起きませんでした。

 火曜日、わたしは同じクラスの部員から声をかけられました。

「部長とかっていつ決めるの?」

 まったく、無責任な言葉です。わたしは少し、腹を立てました。ほんの少しです。高校に入ってからのわたしは極めて、寛容な人間でした。

「わからないな。とりあえず、一年生だけのライングループを作ったほうがいいとは思うけど」わたしは至って冷静に答えます。ライングループをつくり、そこで集まる日を決めるのが自然な流れだと思いました。

 わたしに声をかけた佐々本衿子は部活の出席率が低い女生徒でした。わたしの所属する部とは別に、二つの部活を兼部しており、さらには塾、ピアノと忙しいらしかったのです。ここでわたしが腹を立てたのは、出席率の低さではありません。むしろ、わたしは数多くのことをこなす衿子に感服していました。ただ、出席率が低いということは必然的に部長になる可能性も低いということです。衿子が明確にそう考えていたかは知れませんが、その発言には当事者意識の低さが透けて見えていました。

 一方、わたしはというと出席率はほとんど百パーセントといって差し支えないでしょう。加えて、部の一年生は五人しかいません。わたしが部長とはいかなくとも、副部長や会計といった役職に就く可能性は衿子より確実にあったのです。そういうわけで、わたしは衿子にいらだちました。

 その日、わたしはもうひとりの部員と話をしました。たまたま同じ場所に居合せて、わたしが話を振りました。

「部長とか、いつ決めようね」

「ああ、そうだよね。明後日までだっけ」

 赤野紅代は頷きます。紅代とも同じ類の話をしました。ラインのグループうんぬんのあれです。まあ、そんなところか、と合意に至りました。どちらが行動を起こすかという話はしませんでした。

 帰りのホームルームが終わっても、ラインに動きはありません。わたしはなにもしていないし、他の四人もなにもしなかったのです。わたしは時間や、期限が守れないことが苦手でした。小学校や中学校のころに植え付けられた感覚です。あって悪い物ではないのかもしれませんが、時間が減っていくほどに不安は増します。胃は痛くなります。

 わたしはわたしの不安を取り除くために、わたしが動くことを決意しました。痛む胃を慮ってのことです。ラインのグループをつくり、話の口火を切りました。

『明日の放課後と明後日の放課後、どちらがいいですか?』

 みんな、どちらでも構わないと言った答えでした。

『わたしが明日の昼休み、顧問に空き教室がないかをあたってみます。場所を確保でき次第、連絡する方向でいいですか』

 みんな、賛成をしました。

 わたしはこのとき──いえ、ラインでの行動を起こしたとき──から、わたしが部長になってしまうのではないかと危惧していました。胃が痛みます。

 元来、わたしはリーダーというものに向いていなかった自信があります。しかし、学業の成績が他の生徒よりも良かったために、不服にも小学校や中学校では頻繁に代表やら委員長やらをやっていました。きっと、成績が良いとリーダーとしての資質があるという謎の先入観が多くの生徒に備わっていたのでしょう。もしかすると、そんな先入観を持ったフリで私に押し付けていたのかもしれませんが。当時はこう考えられるほど思慮深くはありませんでした。いまのわたしがひねくれすぎているかもしれませんね。ともかく、わたしはリーダーという経験は多くもっていました。失敗の経験ばかりですが。

 ありがちだったのは、みんなからの意見を募った結果の沈黙です。わたしの通った小中学校は極々ふつうの公立でしたから、同じ地域の子供ということで寄せ集められた生徒の集団だったわけです。つまり、それぞれの頭のはたらきには差がありましたし、そもそも小中学生ですから当然大した脳みそも持ち合わせていません。そんななかで意見を募るということに無理があることを、わたしは例に漏れず優れた脳みそを持っていなかったので、高校にあがるまで気がつきもしませんでした。

 閑話休題。

 火曜日の夜、わたしは一時間半かけて下校しました。いつも通りです。テストも近くないので本を読んでいました。ある、小さな、夜の歌に関する本です。あ、また話が逸れてしまいましたね。わたしは帰宅して食事を終えると、もろもろの勉強以外のすべきことを終えて、布団に入りました。スマホを充電しながら『部活 部長 決め方』を検索します。多くの記事が氾濫していました。

 わたしはどうしても責任を持つ立場になりたくありませんでした。失敗を顧みても、どうすれば上手くリーダーとして立ち回れるのかさっぱりわかりませんでした。だから、調べました。いくつか、適当なページにアクセスしますが、納得のいくものはありません。

 わたしはお腹をさすりました。胃が痛いのです。

 わたしは体を丸めて布団にくるまりました。胃が痛いのです。

 自主的にラインを動かしただけで、わたしにとっては大きな行動でした。わたしの不安を取り除くための行動が、わたしの胃をさらに苦しめました。


 はあ、胃が痛い。

 わたしはあの放課後とその後の部活を思い返して、お腹をさすった。

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