第51話 momentam
そうかと言って、その場所に
無闇に立ち入れば・・・僕も
警備に連れて行かれてしまうに違いないから。
機会を伺った。何か、仕事でその
テスト・コースに近い建物に行く事があれば・・・と。
時は、流れる。そのままに・・・。
そんな、毎日を彩ってくれるのが
夏名や、真知子だったりする。
真知子は、東大から大学院を出たと言う
生え抜きの秀才だったが
それだけに、女、と言うよりは少年のような
素朴さがある。
そのまま、ありのまま。
ノーメイクで居るあたりも、大学生のままのようだったが
無茶している感じ、積み上げてきたものを維持する感じがあった。
でも、誰も居ないと急に女の子らしくなる。
それは、夏名の方が激しい感じだった。
夏名は、九州から遠く出てきていて、いわゆるエリートではないから
それだけ、無理してる感じが強かったりする。
僕らのような研究職ではなく、技術職として
プログラムを担当する人たちのひとり。
でも、室のみんなは
どちらかと言うと・・・夏名を可愛がっていた。
小柄で華奢な子だったところも、あるかもしれない。
ある日のこと・・・・。
僕は、狭い実験室で
LEDの発光試験をしていた。
暗い、暗幕を張った
外から見えない小部屋。
かちゃり。
ドアが開いて、閉じる音がした。
薄暗い部屋。
ひとりで、夏名は
なぜ、こんなところに・・・?
とは思ったが、とりあえず「ああ、これがね。フィリップスの新しいLED。
lumileds。小さいでしょう?これで2Wなんだ」と、光らせてみた。
夏名は、すぐそばに来て・・・・僕のほうを見て。
微笑む。
メタル・フレームの眼鏡をはずして。
そばのデスクに置いて。
しゃがんでいる僕のそばにしゃがんだ。
いい香りがする。
小さくても女なんだな、と・・・その香りが主張しているかのようだ。
彼女には似つかわしくなく、ひざをすこし開いた。
瞳を閉じて、すこし仰いだ。
ちいさな、柔らかそうな唇が震えている・・・。
静かに触れると、息を漏らせた。
痩せぎすだと思っていた肩は、意外と丸みがあって
やわらかかった。
体を合わせると、切なげに
やさしく、ため息をする夏名は
暖かかった。
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