第30話 # round-7
それから僕らは、郊外へとマシンを走らせた。
ちょっとそこまで、のつもりが随分と遠くへ..
なんて事は僕らにはよくあることだ。
気がつくと、車の往来も段々減ってきて
道幅も細くなり、次第に曲がりくねってきた。
前をゆく横田は、大きなアクション。
アクセルを閉じて、一気にリーン・ウィズでコーナーに向かう。
リーンした直後に、すぐワイド・オープン。
小気味良い排気音が弾け、太いリア・タイアはアウトへと孕む。
ちょっと、カウンター気味にコーナーをクリアする横田とFX−1200。
僕は、RZVのエンジンを5000rpm位にキープ。
クロスレシオの6速ミッションは、こういう作業に適しているので苦にはならない。
やや細身のリア・タイアがブレークしないように重いスロットルをコントロール。
テール・スライドしても良いように身構え、腰をオフセットする。
そうすれば、体を預けるだけでマシンはカーヴを描く。
立ちあがりラインに乗ったところで、スロットル・オープン。
全開で横田を追わないと、彼との差は開く一方だ。
こういう低中速コーナーでは意外、ハーレィは速いのだ。
もとより、日本の峠道などはほとんどが低中速コーナーだから
RZVみたいなタイプで速く走るのには技術が要る。
そのあたりがまた、オートマティックなマシンとは違って面白い、ところでもある..
僕は、そんな事を考えながら横田と峠走りを楽しむ。
渓谷沿いのワインディングをリズムに乗って、
軽くハング・オフ、リーン・アウト。
腰を落としたまま立ちあがりでリーン・アウトするのは
B・V・ダルメンなんかを真似して。
ハンドリングの自由度が高いのも16inchマシンの美点だが、両刃の剣でもある。
マシンが進もうとする方向がステアリングアクションに伝わりにくいからだ。
だから、下手な奴はフロントを滑らせてコケる。
でも、巧く使えば最近の鈍重なラジアル17inchよりは
切れるハンドリング。
そのあたりが良い、なんて言うとまた横田は笑うんだけど。
ロードはだんだん、田舎道になってきた。
短いストレートを2速で登ると、いきなり峠になって、
ダウンヒル..
.と思うと、3車身程前を走っていた横田はブレーキ・ランプを輝かせた..
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それから、僕らはワインディングの走りを楽しんで。
僕はその夜に仕事だったので、横田の家の傍で別れた。
クラクションを鳴らして別れる、そんな瞬間にふと。
高校生の頃、50ccでツーリングしたりした頃のことなんかを思い出し
ちょっとノスタルジックになるのも
そろそろ秋の気配を感じる風の匂いのせい、かもしれなかった。
しばらくは、何気なく、何事も起こらずに。
平和、というものがどれほど有り難いか実感してるのは僕くらいのものだろう、
なんてハード・ボイルドの主人公になったつもりで僕はにやけていたり。
横田の言うように、あの連中もそれきり襲ってはこなかった...
....もう、こないだろう。
と横田の台詞を思いだす。
その時、ふともう一つ思いだした。
事故の時、死んだ512の男と一緒だったR32ーRのヤツ。
確か、沼津ナンバーだったな...
ぼんやり、そんな風に思ったが、自分の周りが平静だと
わざわざ騒ぎの中に入ろう、とは僕ももう思わなかった。
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次の休みの日は、水曜日だった。
前の晩、暇だったので早く帰っていい、とクラブのマスターがいうので
楽隊がいつまでいても困るかな、と
思って家に帰って、早寝した。
そのせいで早朝、というか深夜3時頃に目が醒めてしまった。
ぼんやり、と、していた。
二階の僕の部屋から見える三日月は、鋭いエッジが何かの刃のように
蒼白く光っていた...
「.....。」
ベッドから起きあがって、脱ぎ捨てたままになっていた
リーバイス502を穿き、これもまたいつものように
うつろな頭で、早朝の峠の風、の冷たさを想った。
あの日以来、"7"には乗ってなかった。
なんとなく、また何かが起こるような気がして。
不思議とこの日はそういう風には思わず
僕はごく自然にオートバイじゃなくて、車で行こう、と思い、
alpha-MA1を引っ掻けて、立ち机の上でホコリ被ってた
Ford711Mのキィを取って、半地下のガレィジへ降りた。
階段を下ると、淡い月明かりにマシーンたちが眠りについている。
シルヴァーのカヴァを被って。
奥手に、紅いHONDA。
入り口に、グリーンの"7"。
その横のRZVは、昨日乗ったままでカヴァを被っていなかった。
....ああ、悪かったね。
僕はマシンに心でつぶやき、ツール・キャリアの上に置いてあった
バイクカヴァーのホコリを払って
RZVのリアから、そっと掛けた。
2ストだから、こうしないとオイルの飛沫がガスタンクについたりする、んだ。
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