第10話 出逢いは偶然に、隠し扉を開いたかの如く7


「――そうですよ! これも何かの縁なんですし。せっかくですし、連絡先の交換をしていただけませんか?」



洋平は、元気の心中を察するかのように、少し恐縮した態度でお願いした。



「そうですよね、交換しちゃいますか。ねぇ詩織」



麻衣は、キャプテン風の見た目を裏切らない、即断即決で爽やかな笑顔で言った。



詩織も「そうだね」と穏やかな笑顔で言い、快く応じた。



連絡先を交換し終えると、四人は男二人、女二人に別れて解散することとなった。



洋平は帰り道、何度か元気に話しかけはしたが、先輩は上の空である。



「……坂本さん、ボクの家まで来ちゃいましたけど、今日はじぶんちには帰らないんですか?」



「帰るって。帰るけど、帰る前にお茶をいれてやるから飲んでけって」



「ありがとうございます……えっ?」



元気は吉沢宅にお邪魔すると、結局、洋平がお茶をいれることとなり、和菓子まで振る舞うはめとなった。



先輩は、「いただきます」とひと言だけ言うと、その後は無言で、用意してくれたドラ焼きを食べ、お茶を飲み干した。



「坂本さんが、こんなにおとなしいのも珍しいですね」



洋平は、元気が食べ終えて一呼吸したタイミングで言った。



「そうだって。こんなのオレらしくないよな。恋バナでもしますか」



「バナナのはなし、いいですねぇ~。て冗談ですよ。そろそろ来ると思ってました」



洋平は元気が初めて持ちかけてきた類の話に、戸惑う素振りはいっさい見せずに、優しい笑顔と口調で言った。



「さっき四人で行動したじゃん」



「ええ。坂本さんとボク、そして、今日知り合った南沢麻依さんと、坂本さんがゾッコンの桜井詩織さん。四人で遊園地のアトラクションをまわりましたよね」



「……おい、オレがゾッコンの桜井詩織さんって、吉沢家は超能力ファミリーか? オレはひと言も好きだなんて言ってないって……なんで分かった?」



「図星ですね。そりゃ分かりますよ。いつもの坂本さんじゃなかったですもん」



「どんな感じだった?」



「どんな感じだったって、言葉で表現するのは難しいですけど……あ! ソフビ人形! ソフビ人形みたいでした」



「ソフビ人形?……吉沢ばかにしてるのかって」



元気は、少しヒステリック気味な口調で言うと、洋平に飛びかかった。というよりは抱きついた。








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