第8話 出逢いは偶然に、隠し扉を開いたかの如く5


「おい、気がついてるか?」



「気がついてるかって、どうかしたんですか?」



「観覧車なんか見てみれって。なんか懐かしくないか?」



「懐かしいって……あっ、キレイな夕焼けをバックに、なんか、ノスタルジックな雰囲気ですよね」



「ビンゴ! そろそろ行っちゃいますか」



「行っちゃいますか。最高のメリーゴーランド日和ですよ」



洋平は、長年連れ添った夫婦のように、元気の言いたいことを察した。



二人は、白馬に乗る王子様とはかけ離れた、“つまみ食いをして見つからないようにその場から離れる子供”みたいに、こそ泥のように足音をたてずに目的地へと向かった。



そして、本日最大のワクワクの前に到着した元気であったが、なにやら厳しい顔をしている。



「全然並んでないって――人気ないんだな」



「そ、そんなことありませんよ。あれですよ、あれ、高嶺の花ってやつですよ。みんな近よりがたいんですよ」



「そうか、そうだよな。可哀想に。いま乗ってやるからな」



二人は、短い列の最後尾に並んで静かに待った。



「……あの、すみません」



後ろから聞こえてきた女性の声は、明らかにこちら側に向いてのものだった。



「……」



二人は恐る恐る、ほぼ同時にゆっくりと後ろを振り返った。



そこには二人の女性の姿があった。



だが、元気にも洋平にも見覚えがない。



記憶を小学生辺りまで遡っていったが、何もつながらない。



一人は、大きなまるい瞳にキレイな黒髪のロングヘア。



清楚な雰囲気で、美人ピアニストといった感じである。



もう一人のほうは、切れ長の涼しげな瞳にショートカット。



ややボーイッシュな雰囲気で、背はあまり高くないが、女子バレー部のキャプテンといったイメージである。



「先ほどはありがとうございました」



キャプテン風の女性が笑顔で明るい口調でそう言うと、美人ピアニスト風の女性も、それに続いて控えめで上品な笑顔でおじぎをした。



「……あっ、先ほどレストランでご一緒した。そうですよ、声で思い出しました。ねぇ、坂本さん」



洋平は、美人二人が自分たちに話しかけてきたというよりは、クイズで正解したときのような喜びようで元気のほうを見た。



だが、どことなく、というよりは、明らかに元気の様子がおかしい。



ピアニスト風の女性の目を見たまま、ポスターの中の人物のように微動だにしない。



「ちょっと坂本さん、大丈夫ですか――石像さん」



「――おぉ」



洋平は、軽く元気の肩に手を置いて名前を呼びかけたが、何も反応はなく、なぜか“石像さん”の部分で元気は我に返った。


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