第10話 583系の昼


"はくつる81号" は、昭和の香りを乗せて




<その9> 583系の昼間...





ぶらぶらと、撫牛子方面に向けてバス通りではなく、田んぼ道を歩く。


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/ringo.jpg


遥か、夏空に岩木山が霞んで見え、以前は林檎畑だったあたりに国道7号線が4車線で。

雰囲気的には、茨城県とかの国道沿い、のように田畑と不釣り合いなほど

都市的なコンクリートの建物が並ぶ、商業地域に。

地場産業の育成という意味では仕方のない事なのだろうが、

イメージしていた故郷の景色が消えて行く、というのはやや淋しさを覚える..


夏のひざしはいくらかエネルギィを増し、頭にかぶっていたタオルも殆んど乾いて来た。

ザックにしまってあった帽子をかぶり、ついてに昼飯にしようか、と田の畦道に腰を下ろす。

往路、コンビニエント・ストアに立ち寄ったところ、大量生産のコンビニおにぎりでなく、

手作りの丸いおにぎりが、台所用ラップにくるまれて売られていたので、上野で買った

コンビニおにぎりがあるのに、買った。


この弘前地方では昔からおにぎりは丸く、大きさはだいたいソフトボール競技の球くらい。

海苔を巻いて、だいたい中身は鮭、とかの海の幸か、漬物など。

僕も祖母によく作ってもらって、小川に釣りにいったりしたものだった..

などと思いつつ、コンビニの弘前風おにぎりを食す。

塩加減、中身の鮭の切身、などは30年前を変わらないように思えて。

しかし、白いコンビニ袋を見、これがコンビニエント・ストアで売られていることに

時代の流れを覚えた。


遥かに遠い夏の日には、手作りのお弁当を持って遊び回った少年たちも

今は、どこにも姿は見えず。





<映像>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/fujisaki,mpg





舗装された農道を、白い軽自動車ががたがたと走り去っていった。

運転者は僕と同じくらいの年代..

もしかしたら友人かな。と思い、顔を見たがわからず終い。


また、徒歩でバス通りに戻る。と、丁度いい具合いに弘前行きの弘南バスが通りかかったので

手をあげて、バスを停めた。


やや歩き疲れたのと、靴底が磨り減ってきたのが気になってきたからだ。


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/momota.jpg

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/yane.jpg




バスは青森空港線だったようで、大柄の観光バス、車体はおそらく20年くらい前のもの。

茶色いビニール・レザー、丸い蛍光ランプの室内灯。

サンシェードの青も、どことなく時代ががって見える。


乗客は皆、ご老人、老婦人。

地味な服装の、東北の顔立ちが、観光バスの華やかさに似合わない。

僕は、最前列のシートに腰掛けた。

もとより、がら空きだからどこに座っても良いのだが。



<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/kawa.jpg




撫牛子駅前でバスを下車する。

停留所3ツ、およそ3km程度、とはいうものの、バス料金は200円にもならず。

これで利益が出るのか、と、他人事とはいえ少々心配になる。



さて、徒歩で撫牛子駅までは1分にもならず。





撫牛子駅前まで来ると、上り普通電車、701系2両が丁度ホームに停車していた。

運転士が僕の顔を見、乗るのか?といいたげな表情。



こんなところもローカル線区らしい。


列車本数の少いローカル線だと、こんな感じで発車を待ってくれたりして

なんともほのぼのとして人の温もりを感じる。


都会では過密ダイアでこんなサービスは不可能だろう。



僕は、上りに乗るか、下りに乗るかを決めていなかったので

運転士に手を振って「乗らない」という意思を伝えた。



運転士は頷き、701系は発振器の音楽のようなサウンドを残して、弘前方へと

軽快に走り去った。



さて、ホームに上り、僕は時刻表を見た。


先ほどの電車は648M , 弘前行き。 11:42 弘前着。


しかし、弘前からの先の連絡は14:26 の 「かもしか2号」2042Mまではない。




大鰐温泉に行こうかと思っていたが、これでは少々時間がかかりすぎる。



648M に乗車しなかったのはまあ正解とも言える。


それならばバスを下車せず弘前のバスターミナルまで行き、

弘南鉄道の大鰐線へと乗りついだ方がよかった筈だ。



時刻表の奥羽本線、下り方面を見ると..

13:12 に下り、青森行き649Mがある。

おそらく、先程の上り648Mが弘前駅で折り返して来るのだろう。







帰路も夜行列車なので、どこかで温泉に寄ってゆこう..と思う。

以前、この平川付近にも「平川温泉」があったらしい、とガイドブックには載っていた。

しかし近所で聞いてみたところ、そのような温泉は無い、という。

電話帳にも載っていない。




485系特急「かもしか1号」が、タイフォンを鳴らして走り去る。


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/kamosika.jpg



奥羽本線沿線で、青森までの途中で..と考えてみたが、思い当たらず。

それならば、と青森まで直行し、青森からJRバスで十和田湖方面に向い、

八甲田山麓の温泉に行こう、と思い、649Mからの乗り継ぎを見てみると...




649M

13:12 ->13:52

撫牛子 青森



14:30---->15:34----->15:43------->15:53----->15:56----->16:14[みずうみ14号]

青森 城ケ倉温泉 酸ケ湯温泉 猿倉温泉 谷地温泉 蔦温泉

17:05<----16:08<-----16:05<-------15:43<-----15:38<-----15:28[みずうみ9号]

18:05<----17:08<-----17:05<-------16:43<-----16:38<-----16:28[みずうみ11号]

19:05<----18:08<-----18:05<-------17:43<-----17:38<-----17:28[みずうみ13号]



と、温泉に入って折り返し、とするにも都合がよいから、どこかで途中下車しよう。

この路線は周遊ゾーンであるから、料金もかからないし。





そう思うと、じっくりこの駅で残り時間を楽しもう、と思う。

ザックから洗濯物を出し、人気のないのをいい事にホームに干した(笑)


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/sentaku.jpg



その脇で、先程のコンビニエントで買った氷を、コップに開けて飲む。

真夏の太陽の下、しかし、8月も半ばの青森の空は、

どこか、もう秋を感じる風が爽やかだ。



この、撫牛子駅から、青森方へ進むと、平川の橋がある。

よく、この橋のたもとから蒸気機関車の写真を撮ったっけ...


などと、少年の頃を思い出していると、突然、気動車が駆け抜けて行った。



<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/828D.jpg


惰行の気動車は音が静かで、ちょっと驚く。


時刻表を見ると、鯵ヶ沢ゆき828Dだ。




鯵ヶ沢、というと五能線。川辺から分岐して、ぐるりと日本海沿岸を通り、奥羽本線の秋田方、

東能代までの路線。

この路線も、時々蒸気機関車の写真を撮りにいった記憶があるが、まだ非電化のようだ。


旅行に出た時くらいしか気動車に乗れる機会のない僕にとっては

そんな時、旅していると実感するものだが、今回は乗車の機会が無かったので

その内、あの気動車にも乗車してみよう。



と、時刻表をみながらぼんやりしていると、弘前方面からレールの響き。




........臨時列車?




時刻表をザックの上に置き、なんとなくカメラを持つ。と、三条の光が

ヘッド・ライトより放たれて。



...あれは...たぶん...。




見間違えるはずもない。



Nikon-FEのレンズ・キャップを外し、ズボンのポケットに入れる。

右手の親指でフィルムを巻き上げ、左手指先でピント・リングを送り

架空のポイントにフォーカス。


ファインダーに、ゆっくりと近づく列車のフロント。

露出計の針が、シャッター速度を表示する。

右手の指先で、露出計の指針よりやや

シャッター・スピードを早くし、左手でレンズの絞りリングを移動させる。

その度、露出計の針は敏感に上下する。


文字にすると長いが、僅かな時間にこれを行う...のが、マニュアル・カメラの醍醐味。



..真夏の昼下がり、被写体は明るい色、TTL露出計はグレイの反射だ、との計算値だから、

指針に合わせると、暗くなるはず、だから...


などと、考えながらも列車がファインダーの中に拡がって。


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/rinji.jpg




緊張。



ピントを送りながら、レリーズ!。


バネの反発でミラーが跳ねる。





583系団体臨時列車。

回送のようだった。


テールを見送り、もう一度シャッターを切る。

今度は陽射しが背中からなので、いくぶん露出を抑え気味に。


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/hissyou.jpg



....上手く撮れただろうか。

現像が楽しみだ。



偶然、があるので沿線写真撮影は楽しい。




その後も、鯵ヶ沢で折り返してきたさっきの気動車を50mmで流し撮り

(これは、失敗。)


<写真>

http://users.goo.ne.jp/c62_/view/829D.jpg



長いレンズを持ってくれば良いのだが、荷物が重くなるのは嫌だし。

それに、50mmで撮れば写真の練習にもなる。




遊んでいると、すぐに時間は過ぎ、下り649Mは定刻、 13:12に到着した。



いざ、出発、となると、名残惜しい。

もう少し居たかった。などと思いつつ、がら空きのロング・シートに腰を下ろし

懐かしい平川橋梁を眺めながら、故郷を後にした。



景色にはちょっと似合わない感じのモーター制御の発振器の音とともに

701系は素晴らしい走りを見せた...


-------|以下、次回に続きます..|-------

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