第68話
そもそも冒険者たちがこぞって様付で呼ぶとか、ナニモンなんだよ。ギルドの職員もアイラの名前ですぐに動いてるし。
いや、そういえば、あの強いモンスター……フェンリルのようなものをバサバサと切り捨てて倒していたな。
そうとう腕の立つ冒険者か。いわゆるS級冒険者。二つ名持。この町の有名人。ギルドにはなくてはならない人物。
……くっ。見てろよすぐにその座は俺のものだ。
「ほらよ、ここで頭を冷やしな。そんで、二度と冒険者になりたいなんて言わないこった」
地下まで担がれたまま連れていかれ、乱暴に檻の中に放り込まれた。
檻だよ、檻。
石作りのきたない壁に3方向を囲まれ、廊下に面した部分が鉄格子になった部屋。檻っていうか、これ、牢屋じゃんっ。
5つほど並んだ牢に放り込まれ、ガチャリと鍵を閉められた。
はんせいろーって、はんせい牢かよっ!
「おい、待て、なんで俺がこんなところに入れられなくちゃならないんだよっ!出せ!出せよっ!」
鉄格子を握り、廊下にいるギルド職員に訴える。
「俺は何もしてない!アイラとかいう女、あいつがおかしいんだ!無実だ!出せ!出してくれ!」
ギルド職員の女性が冷たい目をした。
「アイラ様をどの口が悪く言いましたか?」
びくっ。
「出して差し上げてもよろしいですよ?その場合は、隣に連れていかれ、きっと街を追放になるでしょう」
はぁ?意味が分からない。
「この時間に街を追い出されれば、街の外には獣が出ます。安全は保障されません。街の外で獣におびえながら野宿をするか、安全の確保されたここで一夜を明かすか、選んでくださって構いませんよ?」
言葉は丁寧だけれど、非常に冷たい言葉を投げつけるような言い方をされた。
獣という言葉に、フェンリルのようなモンスターを思い出す。
手の傷が痛む。
あんなものが出る森で野宿することを想像してぞっとする。
そうか。そういうことか。アイラはツンデレキャラだったな。
俺が獣に襲われないように、ここに泊まらせてやるという遠回しの配慮か。結果として来たかったギルドに来れたわけだし。
わかりにくいんだよ。あの女。
はーっと息を吐きだし、硬くて冷たい石の床に腰を下ろす。
もう、立っている元気もない。本当に疲れた。
「はっ、やっと自分の立場が分かったのか?」
見下したような目をして立ち去ろうとするギルド職員に声をかける。
「なぁ、鑑定魔法とか使えるやついないのか?いたら、俺を鑑定してくれ。そうしたら、俺が勇者だってわかるはずだ」
職員の女は、足を止めて俺をちらりと見ただけで、すぐにスキンヘッドと一緒に地上へと続く階段へと足を運んだ。
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