第26話
☆視点もどる☆
ガサリと物音がして目が覚めた。
「えっと、ここ……」
寝起きのぼんやりした頭で景色を眺める。
そうだ、私異世界に。辺りはまだ暗い。でも、月が3つあるからなのか、月明かりでもずいぶんと周りの様子が見える。
「なんだ、これ。見たことがない」
「高そうな品だね、売れば借金が返せるかも」
「何でこんなにいいもの持ってるのに働きたいなんて」
「表で働くつもりだったんだよ、それで私が店長に裏に回させた」
ひそひそ話が聞こえてきた。
ん?あれ?
枕にしていたリュックがない。
声のしたほうに目を向けると、3人の人影が。
ミミリアと、ダーナとマチルダ。
「返して!」
私のリュックを手に、中身を出している。
「何を返すっていうんだい?これは、私の物だよ」
ダーナがリュックを取り返そうと伸ばした私の手から、ひょいっとリュックを持ち上げて手の届かない場所に移動させた。
「私のです、返してくださいっ!」
「あんたのもんって証拠がどこにある?事実、今持っているのは私だろう?」
ダーナの言葉に、ミミリアが頷いた。
「そうだね、持ち主はダーナだね。私が証人になるわよ。警邏にでも訴える?くすくす」
え?
「何を言っているの?リュックを持って移動してきたの、見てたでしょう?」
「さぁねぇ、知らないわ。くすくす。それにしても、この鏡すごいわねぇ。こんなに美しくはっきり映る鏡なんて初めて見たわ」
「それも、私のっ!」
ミミリアが持っているのは化粧ポーチに入っていた手鏡だ。
「悪いねぇ、私もいつまでもここにいたくないからね。よくわからない物だけど、珍しいから高く売れそうだよ」
マチルダの手にはスマホ。
「駄目!駄目!返して!返して!」
私の物だから返してほしいのはあたり前だけど、それだけじゃない。
この世界にないもの。私が、日本人だという……その証。
日本に帰れるか帰れないかは分からないけれど、それでも今までの私を全部なかったことにも捨てることもできないっ。
浩史は、この世界に来て嬉しそうで帰るつもりなんてなくて、もしかすると日本のことなんてもうすっかり振り切っているかもしれない。
でも、私は、日本に帰りたいし、忘れられないし、日本のことを思い出せる唯一の荷物を手放したくなんてないっ!
「大丈夫だよ、売った金が余ったらあんたの借金もちゃんと返してやるからさ」
全然大丈夫じゃないっ!
「返して!」
人生で初めてだ。
人につかみかかるなんて。
ダーナにつかみかかる。
「人が親切にっ、取り分を分けてやるって言ってんのにっ!」
ぐふっ。
ダーナにお腹を蹴られた。
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