第25話

★浩史視点 残虐描写?気を付けて



「げぇ……」

 食いちぎられた死体。

 胃液が上がってくる。気持ち悪いもの見た。冗談じゃない。

 なんてものを見てるんだよ。

 うわぁ、この子、あの時の子か。かわいかったのに……。

「なぜ、逃げた」

 女性が俺の顔を睨み付ける。

 は?

「俺には倒せないから逃げたに決まってるじゃないかっ!」

 地面に座り込んだままの俺の前にしゃがみ込み、俺の頭を抑え込むようにつかんだ。

 何て乱暴なっ。

「子供をおとりにして逃げたのか?お前は……」

「だ、だから、助けようとしたけど、俺ではどうしようもなかったんだよっ、ほら、見てくれよ、助けようとしたときに負った怪我」

 血まみれの腕を女性に見せる。

「助けようとした?その程度の怪我を負っただけで逃げたのにか?」

 むかっ。

「その程度とは何だよっ!すげー痛いんだぞ?」

 バシッと、女性のこぶしが再び飛んできた。今度は左頬を殴られる。

 地面に打ち付けられた。

「な、何をするんだっ!傷害罪で訴えるぞ!俺を誰だと思っている!」

「本気で助けようとしたなら、助けてくれと、子供が襲われているんだと、なぜ私に伝えなかった。自分の力で助けられなくとも、助けを呼ぶことで助けられたかもしれないのに……お前は、自分が逃げただけだ。子供がそのあとどうなろうと知ったことじゃなかった、そうだろ」

 髪の毛をひっつかまれる。

 痛てぇ。なんだよ、どうして、俺がこんな目に会うんだよ。

「誰に何を訴えるか知らないが、訴えたきゃ好きに訴えろ」

 女性の整った美しい顔が俺の目の前に近づけられる。

 くそっ。どうせ美人だからってちやほやされてきたんだろう。残念だけどな、日本にゃもっとかわいい子は他におたくさんいたんだからな。

 いい気になるなよ。勇者の俺のハーレムに、お前のような乱暴者を入れてやるものか!

「不愉快だ、さっさと私の前から姿を消せ!」

 つかまれていた髪の毛を離される。

「ああ、言われなくたって、行くさっ」

 立ち上がって、簡単に服に付いた泥を払うと街に向かって歩き出す。

 少し進んで振り返る。

「覚えてろよ。俺を殴ったんだ、訴えてやるからな、勇者をないがしろにした罪で牢獄は間違いないだろうよ。土下座して謝れば許してやってもいい」

 女性は、剣を背中に戻して穴を掘っていた。

 ひゅんっ。

 まるでピストルんの弾丸のようなスピードで石が飛んできた。

「消えろ」

 くそっ、くそっ。

 もう土下座しようと絶対に許さない。

「あ、まだ息が……待ってろ、今ポーションを」

 急に優しい声を出した。

 あ?ポーションを持ってるのかよ。なんで俺にはくれなかったんだ。

 くそ、マジで腹立つな。ちょっと美人で強いからって、それがどうした。

 俺は勇者だ。異世界から選ばれて召喚されたんだぞ?

 今はまだチート能力に覚醒してないけれど、スキルチェックをして、神殿で祝福を受けて……ちょっとレベルを上げれば。すぐに強くなる。

 誰もが俺に憧れ、パーティーに入りたいと言うようになる。

 怒りに満ちて歩き続けること2時間。ついに街が見えてきた。

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