四 大物議員にはSNS拡散を

 だが、中には自分達を特権階級だとでも思っているのか? この状況下においても自粛警察を恐れないアホウどももいる……。


「――おい! 何人で会食してるんだ! ひい、ふう、みい……八人もいるじゃないか! 四人でも俺は認めないが何考えてんだ!」


「んん? 貴様、誰に口を聞いておるんだ? わしを知らんのか?」


 料亭から出てきた男女の一団に、いつものように自粛警察がからんでゆくと、その中の最年長の高齢男性が珍しくも言い返して来た。


 その一団には、他に少し年齢の下がる中年男性が四人、まだ若い化粧の派手な女性が三人含まれている……どうやらコンパニオンを呼んで宴会をしていたらしい。


「んん? ……あっ! おまえは国会議員の◯◯!」


 高齢男性の言葉にまじまじと顔を見つめると、それは閣僚経験もある与党の某ベテラン議員だった。


 自粛警察に見つかってもなんら悪びれもせず、きっと自分達は特別な存在であり、たとえルールを破っても問題はないと高を括っているのだろう。


 ……が、そんな理屈が自粛警察に通じるわけがない。


「よーし、そういう態度に出るんだったら、このことを全世界に拡散してやる!」


「うっ…な、何をする!?」


 自粛警察はポケットからスマホを取り出すと、それを議員に向けてフラッシュもバシャバシャと写真を撮り始める。


「コンパニオン同席で会食する非常識な議員発見……#拡散希望、#炎上希望、#国会議員、#◯◯の辞任を求めます、#国民の敵 #◯◯党はクソ #自粛警察砲……と」


 そして、慣れた手つきで画面をタップすると、素早くハッシュタグ付きの文章を打ち込み、今撮ったばかりの写真付きでSNSに速攻UPした。


「無礼な! 貴様! 自粛警察だな! 覚えておけよ! わしにこんなことをしてタダではすまさないからな!」


 無論、厚顔無恥なベテラン議員の大先生は、そんなもの屁とも思わず、政治権力を使って潰してやると、ヤクザものまがいな脅しをかけて黒塗りの高級車で去ってゆく。


 だが、時代遅れな大先生は、SNSによる恐ろしいまでの拡散力と、自粛警察をはじめとする正義感に酔いしれた大衆の熱狂を甘く見ていた……。


 瞬く間にこのスキャンダルは全国民の知るところとなり、彼の事務所にも党本部にも抗議の電話が殺到、あまりに膨大な抗議でホームページもSNSも閉鎖され、この我慢を強いられる時勢に殺伐とした精神状態の人々の中には、議員の事務所や実家に投石をしたり、真っ赤なスプレーで落書きする者まで出る事態に発展した。


 いや、本人だけでなく、その親族はいうに及ばず、支持者や擁護する者までも迫害を受けるほどのひどい有様だ。


 翌日の朝、強気に「法的手続きに出る!」などと言っていた議員も、その夜には土下座する勢いで謝罪会見を開くこととなり、その翌日には離党届け、さらにその翌日には議員辞職、最終的には政界引退にまで追い込まれた。


 この一件以降、それまでは頻繁に行われていた議員達の会食が、滅多に開かれなくなったのも自然の成り行きであろう……ものわかりの悪い大先生方も、さすがにこの二の舞となる恐ろしさはよーく理解したに違いない。

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