特別国家公務員「自粛警察」
平中なごん
一 DQNにはDQNを
20XX年、極東の某島国……。
突如として現れた新たな人類の敵――新C型ウィルスは瞬く間に地上を覆い尽くし、この世界を一変させるほどの
あれから早や一年、いまだその終息はまるで見えず、この国にしても世界最高水準の医療体制を持っているにも関わらず、何もしない無能な政府のおかげで社会の崩壊一歩手前まで追い込まれている。
そんな中、内閣解散をして新たに発足した右派系の新政権は、この危機状況を打破する思い切った政策へと舵を切った。
即ち、感染源を断つために〝自粛警察〟を利用するというものである。
自粛警察……それは、本物の警察のように権限を持たないただの一般人が、不要不急の外出を控えない輩や、時短営業の要請に応じない飲食店などに対して、自主的に注意を行なったり、時には嫌がらせなどの違法行為にまで出る人々の総称である。
それゆえ、むしろ社会を混乱させる厄介者であること限りないのだが、とかく人の目を気にするこの国においては、自粛を促すのに一定の効果があることもまた事実だ。
そこで、政府は考えた……そうだ。こいつらをうまいこと使って、感染拡大を抑える施策にしようと。
今や子供でもわかることだが、感染拡大の要因となっているのは人々の移動と密集、そして、もっとも危険なのが飛沫の飛び交う大人数での会食だ(ま、そんな子供でもわかることをわかっていない政治家の大先生方もいらっしゃるみたいだが……)。
ならば、そうした行動に出る人間を常に監視し、時にそれを阻止して感染源にしなければいい。じつに単純明快な話だ。
で、それを行うのに最適な人材は誰かいないかと考えたところ、ふと頭に浮かんだのがこの〝自粛警察〟と呼ばれる人種の皆さんだったというわけである。
といっても、そのままでは各人の自分勝手で行き過ぎた正義感に則って動いてしまうので役に立たない。
だから、まずは自粛警察に〝特別国家公務員〟という身分を与え、その代わり国の決めたルールに沿って自粛しない人々への注意なり、嫌がらせなりをしてもらうように制度を整えた。
もちろん、そのルールを破って勝手な正義を振りかざせば、即免職となって身分と権利を剥奪され、悪質な場合には職務規定違反で罪にも問われる……その罰則を以て、このどこまでも扱いづらい者達を制御しようという算段である。
そのために、彼らを統率する役目の者は彼らの同類ではなく、
政府肝入りの本政策……これでもT大法学部出のキャリア組である私は若くして警視となったが、次の警視正へのステップとして、現場で彼らを指揮するという難しい仕事を学閥の先輩達から仰せつかったのである。
もっとも警視正以下はまだ地方公務員なので、警視が国家公務員を指揮するのはちょっと所管がちぐはぐになってしまうのだが、さすがに自粛警察の指揮を警視正が行うわけにもいかないし、ま、こんな緊急事態なので致し方ないだろう。
この首都だけでなく、同様に他の道府県でも警視クラスが現場の指揮監督ということになっている。
ともかくも、毒を以て毒を制す……こうして、自粛警察による〝感染源〟というゴミを片付ける街の
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