第7話 邂逅
七体の遺体はそれぞれ損壊が激しく五体満足な物は二体しか無かった。
衣類は全て脱がされていた。
脱がされたそれらは部屋の隅で燃やされていた。
「こいつらがセガーニ教の奴らか?」
ノーマンはハイエンから死体の件を引き継ぎロウと共に観察している。
「損壊が激しく顔が確認できるのは一人ですが恐らく。隅にあった衣類の断片からもこいつらが我々が追っていた奴らで間違いないですね。」
ノーマン達が遺体の身元を特定しているとハイエンが話しかけてきた。
「中継無線機と投光器の設置完了しました。今エデンがクラックスと交代に向かってます。」
ハイエンの報告を聞きノーマンが次の行動を考える。
「了解。クラックスが降りて来たらこの遺体を調べさせる。ロウ、イーゴルの戦闘能力はどれくらいだ?」
「銃の腕は並みより少し上くらいです。しかし近接戦闘ならTU00の皆様共引けを取りません。」
ロウがノーマンの問いに自信あり気に答える。
元よりノーマンは彼らの腕を疑ってはいない。
しかしロウの顔からより信頼し次の指示を出す。
「クラックスの警護はヴロードとイーゴルに任せる。その間俺達三人で周辺の調査だ。」
「「了解。」」
ハイエンとロウが揃えて返事をした。
「なんとまぁ痛ましいご遺体で。ちゃっちゃと検死しますかね。」
降りて来たクラックスが軽い様子で準備を始める。
それを見たロウが咎めるように発言する。
「その態度はいかがなものかと。いくら異教徒共とはいえ、もう少し鎮魂の思いでやるのが礼儀ではないでしょうか?それをあなたはまるでトランプをする様な」
そこまで言ったところでノーマンが口を挟む。
「ロウ、お前の言いたい事はわかる。だが少し口を閉じろ。クラックス、気にせず始めろ。
ヴロードは警戒を怠るな。イーゴルはクラックスに文句はあるか?」
ノーマンの問いにイーゴルは首を横に振る。
「わかった。イーゴルも警戒しろ。お前は付いて来い、ロウ。」
ノーマンは遺体をクラックス達に任せ、ロウとハイエンを連れて部屋の外に出る。
「ノーマン、私が何か間違った事を言いましたか?神父として当たり前の事を言ったと思いますが。」
ロウは丁寧な口調ながらも憤りを隠さずに言う。
それに対してノーマンはため息交じりに返答する。
「ロウ、お前の怒りは正しい。神父としてはな。今は祈る時間すら惜しい。それに俺達は軍人だ、戦士に対して礼儀は持つが祈りはしない。それにこのチームに信仰心のある奴はいない。それぞれの理由で神に恨みを覚えている。今はまだそれを語る程の仲でも無いし、時間も無い。こんなチームが嫌なら消えろ。俺達は俺達だけで任務を行う。」
そんなノーマンの返事に少し戸惑いながらもロウは言葉を返す。
「申し訳ありませんでした。状況を読めず口走ってしまいました。改めてお手伝いさせて下さい。」
ノーマンはロウの反省を受け入れ一言
「付いて来い。」
とだけ言った。
ロウはノーマンとハイエンに付いて行く。
ロウは納得するしか無かった。
自らに課せられた任務達成の為には彼らの協力が必要だからだ。
クラックスは慣れた手つきで遺体を並べる。
胴体に合わせバラバラなっている手足を元の位置に置き、それと同時に死因を特定する。
「どんな戦闘すりゃこんな状態になるんじゃ?例え銃でもこんなんにはならんだろ?」
ヴロードがクラックスの作業を見ながら呟く。
「普通じゃないな。言う通り銃じゃない。かと言って剣や矢でもない。パッと見るに何か…こう…力強い化け物に引き千切られた様な。やっぱりこの遺跡は異常だな。」
クラックスは手を止めずに返す。
遺体のパーツ自体は揃っていた。
しかしその断面は目の当てられる物では無かった。
クラックスが言ったように腕は引き千切られ、脚はねじ切られていた。
到底人間にできる事ではない。
「ヴロード。こいつらの装備を見てもらえるか?イーゴルはそのまま警戒を頼む。」
ヴロードは言われた通り遺体が生前身に纏っていたであろう装備を物色する。
イーゴルは周囲を警戒しつつクラックスの作業を眺めている。
クラックスはバラバラになっている遺体を全て部屋から出し終わり、次は五体満足な遺体を運び出す。
首の骨が折られ、腹に風穴の開いた、ロウがリーダーと言っていた遺体は後回しにする。
まず運び出したのは顔が抉られ、体に複数の刺し傷のある遺体。
クラックスはそれを抱えて運ぶ。
バラバラの遺体の横に置くと「ふぅ」っと息を漏らす。
するとヴロードが声をかけてくる。
「クラックス、緊急事態かも知れん。この装備はどう考えても六人分じゃ。それに奴らの装備で使用痕があるのはやたら装飾のある短剣だけじゃ。他の武器は抜かれた様子はない。こいつら気付いた時には死んどったちゅう事だ。」
その報告を聞いたクラックスは今の報告でずっと抱えていた違和感に思い当たる。
七体の死体の内六体は人間離れした殺され方であった。
だがたった一つ。今しがた運んだばかりの遺体は違った。
クラックスがその遺体を確認する為に振り替えるのと、イーゴルが発砲するのは同時であった。
イーゴルはクラックスの作業を横目に見て警戒をしていた。
自分達神父とは異なる遺体の扱い。効率的で実用的な作業。
彼らとの文化の違いを考えていたイーゴルはたった今クラックスが運んだ遺体に違和感を感じた。
生きている気がする。
見た目には誰が見ても死んでいる事は間違いない。
顔が抉られ無数の刺し傷があるのだから。
しかしイーゴルはにはそう思えなかったのだ。
そう考えているとヴロードの報告が耳に入って来る。
その報告が無ければイーゴルは反応が遅れただろう。
ヴロードが報告を終えてクラックスが振り返ろうとした瞬間。
遺体が飛び上がりクラックスに蹴りを入れようとした。
それを目にしたイーゴルは考えるよりも早く引き金を引いた。
弾丸は蹴りが入る前に遺体の脚に当たる。
常人であればそれで行動不能になる。
だが遺体はアクロバティックに後退し戦闘態勢を取る。
銃声を聞いたチームが一斉に臨戦態勢を取る。
一目見て遺体とわかる物が動いている。
それだけでも十分に衝撃的な光景であったがTU00とエスペーダの翼はさらに衝撃的な物を目の当たりにする。
動いた遺体の顔、胴体、脚の傷があっという間に回復したのだ。
「動くな!両手を挙げて、膝を付け!」
クラックスが規則通りの遺体に銃を向けながら威嚇する。
その間にチームはいつでも撃てる位置に展開する。
遺体は周囲を観察する様に首を回す。
その様子を見てノーマンが遺体の脚元に発砲する。
「動くな!次は当てる!言われた通りに手を挙げて、膝を付け!」
遺体は仕方なくといった様に手を挙げ、膝を付く。
それを確認したノーマンがクラックスに指示を出す。
「クラックス、拘束しろ。」
指示を聞いたクラックスは銃を下ろし、手錠を取り出す。
警戒しながら近づき手錠えお掛けようとしたその時、遺体が身体を捻り逆にクラックスを羽交い絞めにする。
それを見たハイエンとイーゴルが遺体の頭を射撃する。
撃たれた遺体は仰向けに倒れる。
拘束から解かれたクラックスはすぐに銃を構える。
こいつには回復能力がある。
チーム全員がそう考えていると無線が飛んでくる。
「ノーマン!何があった!?銃声がしたぞ!」
レインからだった。
銃声を聞いて慌てているようだった。
それにノーマンが答える。
「レイン。遺体の一つが動き出した。致命傷も回復できる様だ。現在は活動停止中だ。」
「クソ!意味わかんねえな!上の警戒部隊は少し離して警戒させる!見られるのは厄介だ!俺とエデンはいつでも突入できるようにしておく!」
レインはノーマンの報告に動揺しつつも的確に行動する。
無線を終えたノーマンにロウが話しかける。
「ノーマン、もしかすると彼が『聖人』かもしれません。銃撃をやめさせてください。」
「今は無理だ。危険すぎる。他の遺体を見ろ。油断すれば次の瞬間の俺達だぞ。それに止めるのは俺達だけじゃないだろ。」
そう言ってノーマンはイーゴルを見る。
イーゴルは真っ直ぐ遺体に照準を定めている。
ロウはイーゴルの元に向かおうとしたその時。遺体が言葉を発した。
「少し話をしないか?」
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